
2004年の夏,重大な事態が生じた。フロリダ州は史上最多の4個のハリケーンに襲われ,日本ではそれまでの記録を4個も上回る10個の台風が上陸した。危機感を覚えた科学者たちは,これらの強力な熱帯低気圧の増加をさまざまに説明しようと試みた。しかしそれらの説は互いに矛盾があり,地球温暖化の影響については特に意見が分かれていた。
2005年の北大西洋のハリケーンシーズン(6月~11月)には,カトリーナやリタなど壊滅的なハリケーンによって,多くの記録が塗り替えられた。だが,2006年には米国南東部の保険料率が急上昇する一方で,北大西洋で発生した熱帯低気圧(ハリケーンを含む)の数は予測をはるかに下回った。地球温暖化が何らかの原因となっているなら,2006年のハリケーンシーズンはなぜそれほど穏やかに過ぎたのだろうか。
天候のパターンを慎重に分析した結果,2004年と2005年の劇的な増加だけでなく,一転して静かだった2006年についても一致した解釈が得られつつある。その解釈は今後長く続く,不幸な気象災害を予感させるものだ。
著者
Kevin E. Trenberth
コロラド州ボールダーにある米国立大気研究センターの気候解析部門長。気候システムにおけるエネルギーと水の循環を主に研究している。ニュージーランド出身で,気候変動に関する政府間パネルが今年公表した評価報告書では統括執筆責任者を務めた。また国連主導の下にジュネーブを本部として国際機関が共同で推進している世界気候研究計画でも主要な役割を果たしている。
原題名
Warmer Oceans, Stronger Hurricanes(SCIENTIFIC AMERICAN July 2007)