日経サイエンス  2007年9月号

究極の野生動物保護? 更新世パーク構想

C. J. ドンラン(コーネル大学)

 2004 年の秋,10数人の保全生物学者がニューメキシコの牧場に集まり,ある大胆な計画について議論した。その顔ぶれは学界の重鎮から私のようなキャリアの浅い者までさまざまで,互いの専門分野も多岐にわたっていた。大胆な計画というのは,大型動物を北米大陸に復活させようという構想だ。

 

 人類がユーラシア大陸から北米大陸に移住し始めたのは約1万3000年前(この年代を更新世と呼び,180万年前から1万年前までの期間を指す)。この頃,北米に生息していたマンモスやチーターなどほとんどの大型動物は絶滅してしまった。この説はアリゾナ大学のマーティン(Paul Martin)が40年前に発表したもので,人類の過剰な狩りによって大型動物の個体数が激減し,回復できなかったという見解だ。「更新世の過剰殺戮」と呼ばれるこの説は,当時はたいへんな物議をかもしたが,いまでは大型動物の絶滅に人類が多大な影響を与えたという主張が広く受け入れられている。マーティン自身もこのニューメキシコの会議に出席し,彼が示した大型動物の絶滅と生態系への影響,対応策に関する考え方を基に,私たちは「更新世野生復元構想」をつくりあげた。

 

 かつて北米大陸にくらしていたチーターやライオン,マンモスたちは姿を消してしまったが,他の大陸には同じ種や近縁種がいまも生息している。それらを代替種として北米大陸の生態系に取り込もうという構想だ。こうした取り組みによって,何千年もの間,失われていた生態系の重要なプロセスである動物間や動物─
植物間の相互作用を部分的にでも回復できると私たちは考えている。また,代替種を導入することで経済的にも文化的にも利益が得られる可能性もある。しかし,予想はしていたものの,更新世野生復元構想を発表すると,相当な反発がわきあがった。もちろん,反論も大歓迎だ。そもそもこの構想は環境を保全するために提案されたもので,保全の問題は徹底的に議論するに値するからだ。

著者

C. Josh Donlan

コーネル大学で生態学と進化生物学のPh.D.を取得し,現在は同大学の生物学研究員。NGOである先端保全戦略研究所を創設し,所長を務める。ガラパゴス国立公園とアイランド・コンサーベーションの顧問,ロバート・アンド・パトリシア・スウィッツァー財団と環境リーダーシッププログラムの上席研究員も務めている。ニューヨークタイムズ紙の「2005年のビッグアイデア」で取り上げられ,アウトサイド誌で2005年のイノベーター25人の1人に選ばれた。主にオーストラリアのタスマニアとカリフォルニア州サンタクルーズで過ごし,島の生物種の絶滅を食い止めるために尽力している。

原題名

Restoring America's Big, Wild Animals(SCIENTIFIC AMERICAN June 2007)

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