日経サイエンス  2007年9月号

ネットワーク符号化 ウェブ渋滞を解消する驚異のアイデア

M. エフロス(カリフォルニア工科大学) R. ケッター(独ミュンヘン工科大学) M. メダール(マサチューセッツ工科大学)

 インターネットの利用者は増え続け,やり取りされる情報もメールや音楽,テレビ,映画とさまざまで,データ量は激増している。大都市の道路事情と同様,ネットの世界でも“渋滞”解消が大きな課題だ。実際の道路では車線の拡幅やバイパスの新設で渋滞を緩和しているが,ネットの世界でも同じような努力がなされてきた。例えば銅線を光ファイバーに代替したり,光ファイバーの回線を増やすなどの対策がそうだ。しかし,情報の増え方は車の増え方よりもはるかに急で,こうした通信インフラ増強では追いつかなくなる可能性がある。

 

 現在,まったく新しい発想でネットの情報渋滞を解消する研究が進んでいる。「ネットワーク符号化」だ。自動車の場合,1台がぎりぎり通れる狭い道に2台は同時に進入できないが,データならそれが可能になる。同時に進入しようとする2つのデータ,例えばXとYを演算し,混ぜ合わせて1つのデータに変えてしまうのだ。この新しいデータZには,もとのXとYのデータを復元する一種の「ヒント」が含まれている。XとYのデータはネットのさまざまな経路を流れるので,例えば2つの別経路からそれぞれXとZを受け取れば,それからYを復元できる。

 

 ネットワークの“交差点”となるノードに,こうした演算機能を持つ装置を設置すれば,データが流れる「車線」が実効的に倍になる。光ファイバー回線を倍に増やすよりもはるかに安いコストで渋滞を大幅に緩和できるのだ。実験で動作原理が実証され,研究開発に弾みがついている。

著者

Michelle Effros / Ralf Koetter / Muriel Médard

3人は長年にわたる共同研究者で友人どうしでもある。エフロスはカリフォルニア工科大学電子工学科教授で,2002年にはTechnology Review誌で100人の若手イノベーターの1人に挙げられた。ケッターは独ミュンヘン工科大学通信工学研究所教授で,同研究所所長。メダールはマサチューセッツ工科大学電子工学科とコンピューターサイエンス学科の准教授で,同大学情報意思決定システム研究所副所長を兼任。

原題名

Breaking Network Logjams(SCIENTIFIC AMERICAN June 2007)

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