日経サイエンス  2007年8月号

アンデスの失われた哺乳類

J. J. フリン(アメリカ自然史博物館) A. R. ウィズ(カリフォルニア大学サンタバーバラ校) R. カリエール(チリ大学サンチャゴ校)

 広々とした草原のすみで,ウマに似た2頭の蹄を持つ草食動物やレイヨウに似た南蹄類,地上性ナマケモノなどがのんびりと草を食んでいる。彼らは目前に危機が差し迫っていることに気がついていない。チンチラのような生き物や見かけがネズミに似た有袋類も,同じように何も知らずに手近の種子をかじっている。突然,ごつごつした山体に雪をいただいた火山の1つが,大爆発を起こした。この天変地異により,山の急斜面に沿って火山灰が洪水のように流れ下る。すぐにこの火砕流が平坦な低地にどっと流れ込んだ。動物たちは何が起きたのかわからないまま,埋葬されていった。

 

 この火山性の激流は,のみ込まれた動物たちにとっては不幸としか言いようがないが,古生物学にとっては幸運だった。動物たちの早過ぎた埋葬のあと何千万年も経って,山脈の形成とそれにひき続く浸食によって,埋没していた骨格の化石がチリ中部のアンデス山脈の山中で,白日のもとにさらされたのだ。

 

 私たちの調査隊は1988年にアルゼンチンとの国境近く,高山を流れ下るティングイリリカ川沿いの谷で恐竜の化石を探しているときに,これらの骨の最初の化石を発見した。この最初の発見が実り多いものだったので,その後ほぼ毎年のようにこの地を訪れ調査をしている。これまでに,チリ中部のアンデス山脈地域の12以上の産地から1500点以上の大昔の哺乳類の化石を発掘した。

 

 研究室に運び込んだ増え続けるコレクションを骨の折れる作業を経て調べた結果,大昔の南アメリカにいた哺乳類の歴史について,いくつかの重要な新事実が明らかになってきた。驚くべきことに,チリの化石は4000万年前から1000万年前の時間幅を示した。この数字はこの地域で予想されていた年代よりもはるかに若い年代だ。その上,私たちが見つけた標本の多くは,南アメリカのほかの地域にある同年代の地層からは見つかっていない哺乳類がほとんどだ。

 

 これらの珍しい化石のいくつかは,南アメリカ特有の哺乳類の系統史において,これまで不明瞭だった時代に光を当ててくれるだろう。また,おもだった哺乳動物がどこから南アメリカに来たかをめぐる長年の論争を解決に導いてくれそうな化石もある。つまり,私たちが発見した化石は,特定の生態系(と山脈そのもの)が,いつこの地域に出現したかという疑問に対するそれまでの理解を覆したと言っていい。

著者

John J. Flynn / André R. Wyss / Reynaldo Charrier

3人は過去20年にわたり一緒にアンデス山中に埋まっている化石の歴史を踏査してきた。フリンはニューヨークにあるアメリカ自然史博物館の古生物部門長で,フリック・キュレーターでもあり,同博物館の新しいリチャード・ギルダー大学院の院長を務めている。ウィズはカリフォルニア大学サンタバーバラ校地球科学科の教授。カリエールはサンチャゴにあるチリ大学地質学科教授。3人はこの研究に格別の支援をしてくれた多くの熱心な化石プレパレーター(化石技師),サンチャゴにある国立自然史博物館,チリ国立記念物協議会,全米科学財団,米航空宇宙局(NASA),チリ国立科学技術研究委員会に対して,謝意を示している。

原題名

South America's Missing Mammals(SCIENTIFIC AMERICAN May 2007)

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