日経サイエンス  2007年8月号

新たな汎用電子材料 カーボンナノネット

G. グルーナー(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)

 ナノテク有望材料である筒状炭素分子カーボンナノチューブ。電気や熱をよく通し,安定性が高いなど優れた特性があるが,難点もある。あまりに細いので一本一本をつまんで動かすのは大変だし,原子配列の微妙な違いでその電気特性が半導体的にも金属的にもなるからだ。

 

 それならば発想を変えたらどうだろう。ナノチューブはいわば微細な繊維なので,それらが絡みついてできた一種の紙やシートを作ることができる。これを「カーボンナノネット」という。作り方は簡単で,例えばナノチューブを溶媒に溶かして基板に吹き付ければよい。作製条件を変えることで,導電性の高いものから半導体的なものまで,さまざまな特性を持つカーボンナノネットができる。軽くて柔軟性があり,しかも製造コストが安い。ナノチューブは非常に細いので,見た目は透明だ。

 

 このカーボンナノネットが今,新しい汎用電子材料として注目され始めている。太陽電池やトランジスタ,センサーなどは多くの製品が出回っているが,カーボンナノネットを利用すれば,それらをさらに軽くしたり,透明にしたり,曲げられるようにできる。量産が実現すれば,かなり安くなりそうだ。こうした特性を持つ汎用電子材料の登場は,まったく新たな利用分野,新たな市場を生み出すことができる。

 

 例えば,紙のように曲がる電子ペーパーや,軽くて服にもなじむ装着型の電子機器,窓や屋根に手軽に利用できて,しかもその存在を感じさせないような太陽電池,さまざまな物流に使える汎用のICタグなどだ。カーボンナノネットによる「ナノネット・エレクトロニクス」が,私たちの生活スタイルを大きく変えるかもしれない。

著者

George Gruner

カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授。ナノスケールの現象にかかわる基礎的研究を行っている。カリフォルニア州エメリービルのベンチャー企業ナノミックスの最高技術責任者を兼任し,カリフォルニア州メンローパークにあるユニダイムを創設した。どちらの企業もナノテクノロジーの応用開発に取り組んでいる。趣味はスキーやクラッシック音楽,技術評価。彼の研究は全米科学財団(NSF)の支援を受けている。

原題名

Carbon Nanonets Spark New Electronics(SCIENTIFIC AMERICAN May 2007)

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