
現在も存在するか,それとも絶滅しているのかはさておき,地球以外に太陽系で生命が存在する可能性が最も高い惑星は火星といえるだろう。惑星の形成過程,惑星誕生直後の環境,貯水源や火山,地質学的過程など多くの点で火星は地球に似ており,微生物の生存に適している可能性がある。
火星以外では,土星最大の衛星タイタンも地球外生命体が存在する候補として繰り返し話題になる。初期のタイタンは生命の分子前駆体が形成されやすい環境にあり,タイタンにかつて生命体が存在していた,あるいは現在も存在していると考える研究者もいる。
これだけ生命存在の可能性が取りざたされるのは,生物と関連の深い気体であるメタンが両方の星で見つかっているからだ。火星には低濃度だがかなりの量のメタンが見つかっており,タイタンにいたっては文字通りあふれるほどのメタンが存在している。メタンが生命活動で作られている可能性は,地質活動によって作られている可能性と同じぐらい高いと考えられる。タイタンではその可能性は低いかもしれないが,火星のメタンは生命活動に由来するものである可能性は高い。どちらが正しいとしても,きわめて興味深い話だ。前者が正しければ宇宙に存在している生命体は私たちだけではないことを示しているし,後者が正しければ,火星とタイタンの地下に大量の水や未知の規模の地球化学的活動が隠されていることを示している。
これらの星でのメタンの起源と,メタンがその後どうなったかがわかれば,太陽系や他の惑星系で地球に似た星の形成や進化,あるいは生命が生息できる環境を作り出す過程を知るための重大な手がかりになるに違いない。
著者
Sushil K. Atreya
宇宙研究者としてのキャリアは,巨大惑星を目指すボイジャー計画科学チームの一員から始まった。その後もガリレオ,カッシーニ=ホイヘンス,ビーナス・エクスプレス,マーズ・エクスプレス,マーズ・サイエンス・ラボラトリー(2009年打ち上げ予定),ジュノー・ジュピター・ポーラー・オービター(同2011年)などさまざまなミッションに携わってきた。主な研究テーマは大気の起源・進化や惑星系の形成についてで,ミシガン大学アナーバー校の教授を務め,また米国科学振興協会フェロー,ジェット推進研究所の名誉客員研究員でもある。宇宙の探索をしていないときには山でのハイキングやサイクリングを楽しんでいる。この記事を書くにあたっては,クロエ・アトレーヤ,ウェスレー・ハントレス,ポール・マーフィー,インゲ・テン・ケイト,ヘンリー・ポラックおよびエレナ・アダムスの助言と協力を得た。
原題名
The Mystery of Methane on Mars and Titan(SCIENTIFIC AMERICAN May 2007)
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