日経サイエンス  2007年8月号

月の起源と進化に新たな光

中島林彦(編集部) 協力:小久保英一郎(国立天文台) 荒井朋子(国立極地研究所)

 かぐやなどの探査で月の全貌が解明されようとしているが,探査だけが月の謎を解くアプローチではない。別の2つの研究アプローチも重要な役割を担う。1つは計算機実験。超高速計算機によるシミュレーションは,想定される月誕生の模様を描き出した。それによると月はたった数カ月で形成された可能性がある。もう1つは南極大陸や砂漠で相次ぎ発見されている月からやってきた隕石の研究。アポロ計画で持ち帰られた月の石や探査機のデータと総合して考えることで,月の進化に新たな光があてられようとしている。

 

 月の起源に関してアポロ計画などの月探査で有力視されるようになったのは,火星サイズ以上の原始惑星が原始地球に衝突したとする巨大衝突説だ。衝突の際,原始惑星の重い鉄コアの大半は地球に沈む一方,岩石からなるマントル部分は高温で溶けたり気化したりして,地球の周囲を取りまくようになる。それが冷えて微粒子からなる円盤ができ,この微粒子どうしが衝突合体を繰り返して月になった,というシナリオだ。

 

 問題はそううまく原始惑星が原始地球に衝突するかどうかだ。巨大衝突が起きたとしても,原始地球を取りまく微粒子の円盤から,月のような衛星がきちんと形成されるかどうかも,はっきりしなかった。これらの問題について,それが非現実的なものではないことを示したのが計算機実験だった。

 

 月隕石研究も重要だ。アポロ計画で地球に持ち帰られた月の石や塵は着陸地点の関係から月の表側の低緯度地域のものばかりで,月面の10%にも満たない地域しかカバーしていない。一方,月隕石は探査機で持ち帰られていない極域や月の裏側からの岩石を得られる可能性がある。これまでに南極大陸やサハラ砂漠,アラビア半島の砂漠などで約100個の月隕石が発見され,月の海の玄武岩や,月の高地の斜長岩などが確認されている。

取材協力 小久保英一郎(こくぼ・えいいちろう)
国立天文台理論研究部准教授。専門は惑星系形成論。惑星や衛星,リングの起源と進化に興味 を持ち,重力相互作用に特化した超高速計算機GRAPEによる計算機実験などに取り組んでいる。

荒井朋子(あらい・ともこ)
国立極地研究所南極隕石センター研究員。専門は固体惑星物質科学,岩石・鉱物・地質学。月 隕石の鉱物学的研究や,月表層の分光画像を用いた月の地殻の研究などをしている。

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