日経サイエンス  2007年8月号

月の謎を解く探査機「かぐや」

加藤學(宇宙航空研究開発機構)

 人類初の月着陸から約40年が過ぎた今夏,アポロ計画以来の本格的な探査機が月に旅立つ。開発したのは日本で,種子島からH2Aロケットで打ち上げられる。アポロ計画はギリシャ神話の太陽の神の名前に由来するが,今度の探査計画は月の女神にちなみセレーネ(SELENE)と略称される。一般の人々に親しみを持ってもらおうと探査機の愛称が一般公募され,最も多かった「かぐや」に決まった。竹取物語のかぐや姫にちなむ名前だ。

 

 かぐやは高度100kmの月上空に浮かぶ観測ステーションだ。重量2トン,全長約5m,高さと幅は約2mでマイクロバスに近い。約13畳分の広さがある太陽電池パドルや長さ15mの電波アンテナ4本,磁場観測装置をつけた12mのマストを展開,約1年にわたって月を観測する。

 

 アポロ宇宙船には3人の飛行士が乗ったが,かぐやに人は乗らない。アポロ計画の時代には存在しなかった高度なコンピューターが人の頭脳の代役を務める。人の眼の代わりとなるのは機械の眼。人間は可視光でしかものを見ることができないが,かぐやの眼は可視光のほかにガンマ線,X線,赤外線でも月を見る。こうしたさまざまな種類の光(電磁波)で月を眺めると,人の眼では見ることができない別の月面の風景が浮かび上がる。それは例えば元素や鉱物,岩石の分布だ。

 

 かぐやは月面からやって来るさまざまな種類の光を受けるほか,自らも“サーチライト”で月面を照らして月の素顔を調べる。サーチライトの1つはレーザー光線。月面からの反射光をもとに地形を精密に調べる。もう1つは電波。長さ15mのアンテナ4本が放射する強力な電波は,月の地下数kmまで到達して戻ってくる。この反射波を分析すると最深5kmくらいまでの地下構造がわかると考えられている。富士山を逆さにしたよりもさらに深いところまで月内部を“透視”できるのだ。巨大クレーターなどの地下がどうなっているかが見えてくるだろう。

著者

加藤學(かとう・まなぶ)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部固体惑星科学研究系研究主幹・教授。月探査機「かぐや(SELENE)」のサイエンスマネージャ。搭載する観測装置の1つ,蛍光X線分光器を担当する。小惑星探査機「はやぶさ」にも参画,2013年頃に欧州宇宙機関(ESA)とJAXAが共同で打ち上げる予定の水星探査機ベピコロンボのメンバーでもある。

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