
夜空で目にする星は天の川で生まれ育った星たちばかりと考えるのが当然なのだが,実はそうとも言えない。例えば北天で2番目に明るい恒星,アークトゥルス。この星は天の川の大多数の星たちとは少し違った軌道をたどり,化学組成もわずかに異なる。実はアークトゥルス以外にも一風変わった軌道や組成を持つ“少数民族”のような星々が天の川銀河全体に散らばって存在している。
天の川の星々に混じっている移住者の星たちを見つけ出すには鋭い観察眼が必要だ。移住者たちは最初,ひとかたまりの集団として運動するが,次第にばらけて列をつくり,一筋の流れのようになって移動する。こうした移住者たちの流れを「スターストリーム」という。そしてその流れをたどると,天の川銀河を取り巻く球状星団や矮小銀河のひとつに行き着く。おそらく,そこが移住者たちの故郷であるか,故郷の“名残り”なのだろう。
スターストリームの形を探れば,その場所ごとの重力場の情報が得られる。銀河の質量の大半は謎に包まれた未知の存在,暗黒物質(ダークマター)が占めているが,重力場の情報から,その分布状況を探り出すことができる。
完全に併合された小銀河の星々は,スターストリームとしてのまとまりも失われ,天の川の星々と混ざり合う。しかし,そうなっても「故郷の記憶」がわずかに残っている。そうした手がかりをもとに,移住者たちを見つけ出せば,私たちの天の川銀河がたどってきた小銀河併合による巨大化の歴史を明らかにすることができる。
著者
Rodrigo Ibata / Brad Gibson
2人が共同研究を始めたのは1997年。暗黒物質を理解するため,いて座矮小楕円銀河の観測結果を利用しようと試みたのが最初だった。イバタは観測が専門だが理論もかじったことがある。ギブソンは理論が専門だが観測の経験も少しある。イバタはフランス国立科学研究センター(CNRS)傘下のストラスブール天文台を拠点に観測研究で業績を上げてきた。1994年に,当時としては最も天の川銀河に近い伴銀河,いて座矮小銀河を発見した研究チームのリーダーでもある。2004年にはさらに天の川銀河に近い「おおいぬ座矮小銀河」も発見した。高名な理論物理学者ワインバーグ(Steven Weinberg)の著書『宇宙創成はじめの三分間』(邦訳はダイヤモンド社)を読んで科学への興味をかき立てられた。「あの本は,退屈な演習にすぎなかった数学を勉強しようという気を起こさせてくれた」とイバタは話す。ギブソンは英セントラル・ランカシャー大学の理論天文学科長。銀河形成のコンピューターシミュレーションのパイオニアであり,天の川銀河の周りを異常な速度で回る不思議な星雲について研究してきた。
原題名
The Ghosts of Galaxies Past(SCIENTIFIC AMERICAN April 2007)
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