
ダム撤廃によって,かつての生態系を回復できるようになってきた。だが,そこには生態学上のリスクも存在する。マイナスの影響を避ける方法は?
小さな堰(せき)を含め,世界には約80万基のダムがあるが,河川を元の姿に戻すため,小規模ダムを撤去する例が増えている。なかには大規模なダムの撤廃もある。米国では過去10年ほどはダムの撤廃が建設を上回っている。フランスはロワール渓谷のダムを撤去したし,オーストラリアやカナダ,日本でも撤廃計画が進行中だ。
ただし,ダムの撤去・縮小には慎重な計画立案と積極的な介入が必要になる。有毒堆積物が下流へ運ばれるのを防ぎ,外来種の上流への侵入を妨げるなど,ダムが環境面でプラスの働きをしている場合もあるからだ。
アリゾナ州フォシルクリークのダムの場合は,事前に在来魚種を安全な場所に移したうえで薬物によって外来種を駆除した。こうした方法が今後のダム撤去プロジェクトのカギになるかもしれない。私たちのチームはフォシルクリークが元の姿をどう取り戻すかを記録中だ。未解明の点が多くあるが,今後5〜10年で特に注目しているのは,人間の介入なしに在来魚種が繁殖するかどうか,外来魚種が再び侵入してくるかどうかだ。川の復元に伴って,訪れる人々の数も増えるだろう。人々が生態系にアクセスでき,一方では壊れやすい生態系を保護できるようなルール作りが必要になっている。
今後数年内に大きなダムがいくつか廃止されて,重要な知識をもたらしてくれるだろう。2009年にはワシントン州の国立公園にある2つのダムが撤去される。日本では熊本県の球磨川にある荒瀬ダムが,水質悪化と河川および八代海の漁獲高減少を懸念する長年の市民運動に応える形で,2010年に撤去されることになった。オーストラリアではモコアン湖をダム撤去によって湿地帯に戻す計画が進み,フランスではロワール渓谷で5つ目のダム撤廃計画が検討されている。
より深い生態学の知恵,より柔軟な工学技術の適用によって,世界の河川はついには植物から人間まですべての生き物の期待に応えられるようになるだろう。
著者
Jane C. Marks
藻類を専門とする生態学者。ミシガン大学アナーバー校で英語の学士号を取得後,水生植物に魅了され,オハイオ州立ボウリンググリーン大学で理学修士号を,カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得した。1995年から米国際開発庁に勤務,世界の自然保護・資源管理問題に関して助言を行った。1999年から北アリゾナ大学に所属。フォシルクリークでの仕事はドキュメンタリー『A River Reborn: The Restoration of Fossil Creek』で取り上げられている(http://www.riverreborn.org参照)。
原題名
Down Go the Dams(SCIENTIFIC AMERICAN March 2007)
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