日経サイエンス  2007年6月号

ディーゼル車をクリーンに

S. アシュレー(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 ドライバーはドアを開けて運転席にのぼり,トラックの天井に手を伸ばした。このトラックは最近のディーゼルエンジンを搭載した車だ。彼が背伸びをしながら排気管にハンカチを引っかけると,白い布はたちまち黒いススで汚れた。彼は「これでいいかい?」と尋ね,私はうなずいてドライバーに礼を言ってハンカチを受け取った。

 

 ここはニュージャージー州を走る高速道路のパーキングエリア。先ほど協力してもらったアイドリング中のトラックや,仲間の大型トラックが止まっている。そこから少し離れたところに,新型ディーゼル車のメルセデスベンツE320ブルーテック・セダンが止めてある。キーを回すと,ディーゼルエンジンは回転し始めた。しばらくしてから私は車の後ろ側に回り,きれいな布を排気管にかぶせてみた。すると,まる1分経過しても,布には汚れがほとんど付かなかった。

 

 この“ハンカチ実験”の結果が示す通り,“クリーンなディーゼル車”という言葉にもはや矛盾はない。ディーゼルエンジンは最も大気汚染のひどい原動機だと長らく考えられてきた。その悪名が消えないのは,ディーゼルエンジンが耐久性に優れていて,時代もののエンジンがいまなお使われているからだ。ところが,このベンツE320は,もともと優れていたディーゼル車の燃費を犠牲にすることなく,大気汚染物質の排出量を低減する。今後の多目的車(SUV)やピックアップ・トラックなど,新型ディーゼル車の先駆けとなるモデルだ。3000ccのV型6気筒エンジンのE320は,1リットルで約15km走り,満タンにすれば約1260kmを走行できる。

 

 クリーンなディーゼル車は次の3つを利用している。(1)汚染物質生成の少ない新しいエンジン (2)ススを取り除き,排気を無害化する新型排気装置 (3)昨秋,北米市場に登場した超低硫黄燃料。以上の改良にさほどコストはかからないようだ。

原題名

Diesels Come Clean(SCIENTIFIC AMERICAN March 2007)

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