
タンパク質といえば,それぞれ特有の立体構造をもち,特異的な機能を発揮するといわれてきた。アミノ酸がずらりと連なった鎖が複雑に折りたたまれ,コンパクトな立体構造をとるようになって初めて機能が発揮できる。ところが最近になって,非常に奇妙なタンパク質が次々と見つかってきた。立体構造をとらない部分のあるタンパク質だ。例えば,普通の球状のタンパク質の一部からひらひらとほどけた帯が伸びているような状態なのだ。
実験をする際の技術的な難しさから,このひらひらした領域はほとんど無視されてきた。「形(定まった立体構造)と機能は表裏一体」という考え方があったせいで,逆に形の定まらない部分は重要ではないと思われてしまった面もある。しかし,この不定形の部分は,そのタンパク質が結合する相手に巻きつく機能をもつ場合があり,しかも,相手によって巻きつき方が変わる。つまり,複数の相手と結合することを可能にした構造なのだ。
さらに,こうした不定形の領域をもつタンパク質は,決して例外的なものではなく,生体にとって根本的な機能をもつタンパク質の1/3を占めていた。この奇妙な構造が,タンパク質の常識を大きく変えようとしている。ここでは,この不定形の部分とそれをもつタンパク質を紹介していこう。
著者
西川建(にしかわ・けん)
前橋工科大学生命情報学科教授。この3月までは国立遺伝学研究所・大量遺伝情報研究室の教授だった。アミノ酸配列からタンパク質の立体構造をコンピューター解析によって予測し,さらにその立体構造から機能を探ってきた。また,比較ゲノム解析的な研究も行っている。タンパク質の配列データを解析したデータベース「GTOP」は遺伝研の同研究室で製作されたもので,一般公開されている。
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