日経サイエンス  2007年5月号

地デジ時代 おたくのテレビは大丈夫?

M. アントノフ(技術ライター)

 米国では2年後,日本でも4年後に地上波テレビ放送が全面的にデジタルに切り替わる予定だ。しかしアナログテレビの遺産も大きく,スムーズに移行できるかどうかは別問題だ。

 

 全国の地上波テレビ局がアナログ放送を停止し,デジタルへ完全に切り替わる“Xデー”は米国では2009年2月17日,日本では2011年7月24日。ケーブルテレビと衛星放送の視聴者,デジタルチューナー内蔵のテレビを持っている人は,従来通り人気番組を楽しめる。しかし,在来の受像機と室内アンテナや屋根の上の錆び付いたアンテナに頼っている人(どちらかというと貧しく,高齢で,地方に住んでいる人たち)がテレビのスイッチを入れると──何も映らない。カラーテレビの登場で白黒テレビが時代遅れになって以降,消費者にテレビ受像機の切り替えをこれほど強く迫る新技術は初めてだ。

 

 アナログ放送の電波信号は変化しやすいのに対し,デジタルテレビ(DTV)の放送はパルスを使って情報を効率よく正確に送る。このためデジタルテレビの画像は驚くほど鮮明で,野原に茂る草の葉の1枚1枚や,サスペンスドラマの刑事が手にした身代金要求メモの内容まで見て取れる。

 

 また,限られた周波数帯域幅に膨大な量の情報を詰め込んで送れるおかげで,新たな双方向サービスも可能になる。例えば野球中継の最中に選手の成績データを視聴者が呼び出したり,料理番組でレシピを表示させたりできる。テレビ局側も,同じ帯域幅を使ってより多くのチャンネルを放送できるだろう。または,新たに空いた帯域を別の通信に利用できる。台風をはじめとする災害時の緊急通信や,次世代携帯電話サービスなどだ。

 

 しかし,厄介な問題がいくつか残っている。現在のアナログ放送が終了した後も,アナログテレビの遺産は何年も尾を引くだろう。

 

 “Xデー”以降,「デジタルデバイド」という言葉はコンピューターアクセスとは無関係のまったく新しい意味を持つようになる。より正確にはこういったほうがよい。2009年以降ずっと,視聴者は一連のデジタルデバイドにさらされる。アナログとデジタル,そしてさまざまな種類のデジタルの間に生じる障壁に。

著者

Michael Antonoff

技術ライター。家電製品に関連する技術について,Video誌やSound & Vision誌,Popular Science誌に20年以上にわたって執筆してきた。

原題名

Digital TV at Last?(SCIENTIFIC AMERICAN February 2007)

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