
シリコン半導体によってコンピューターや携帯電話など情報機器が普及する一方,ガリウムヒ素半導体などによって小型高性能なレーザー素子が実現し,光記録や光通信,光計測分野などが大きく発展した。もし,どちらか一方の半導体で電気信号と光信号の両方を生み出し,制御できるようになれば,1つのチップ,1つの光電子集積回路によって演算と計測など多様な機能を集約できる。
理想はシリコン半導体による電気信号と光信号の“統合”だ。シリコンは簡単に言えば岩石の主成分。ガリウムヒ素などと比べて資源として豊富で、環境への負荷が少なく,量産技術が確立し安価だ。だから,シリコン半導体でレーザー光を生み出すことは長年の夢だった。それが今,現実のものになりつつある。
シリコンは結晶構造などからレーザー光の発振は難しいと考えられていた。しかし,短所とみられていた特性を長所に変えるような発振メカニズムを採用すれば,レーザー光は発振できるはずであり,実際にできたのだった。それは,電子を極めて小さな“箱”に閉じこめて光子の放出効率を上げる「量子閉じ込め効果」であり,結晶の中を伝わる一種の音波「フォノン」によって光の波長が変わる現象「ラマン効果」などだ。
まだ実用に耐える性能には達していないが,日米欧で,さまざまなアプローチによる実用化研究が進んでいる。現在,通信回線は銅線から光ファイバーへの転換が進んでおり,光制御と電子制御の一体化がより強く望まれるようになった。一方,環境汚染のモニター装置やテロにつながる化学兵器・爆発物の検出装置の小型化高性能化には光計測が有望視されている。こうした分野でシリコンレーザーは大きな威力を発揮するだろう。
著者
Bahram Jalali
カリフォルニア大学ロサンゼルス校ヘンリー・サミュエリ工学及び応用科学部電気工学科教授で,カリフォルニア科学センターの理事も兼任。休暇を3人の子供と南カリフォルニア沖でカヤックやヨットに乗って過ごすのが趣味だ。
原題名
Making Silicon Lase(SCIENTIFIC AMERICAN February 2007)
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シリコンレーザー/誘導放出/ラマン効果/ラマンレーザー/フォノン/自由キャリア吸収/オージェ再結合