日経サイエンス  2007年5月号

特集:湯川秀樹生誕100年

素粒子論はどこに向かうのか?

中島林彦(編集部)

 2006年12月,京都大学で「湯川・朝永生誕百年記念シンポジウム──現代物理学の進歩」が開かれ,4人のノーベル賞受賞者をはじめ内外から多数の理論研究者が集まった。湯川秀樹と朝永振一郎の生誕100年を記念した催しは2005年暮れごろから,ゆかりがある京都大学や筑波大学などで開かれ,今後も大阪大学などで企画展が予定されているが,ハイライトとなるのがこのシンポジウムだった。主催した京都大学基礎物理学研究所の九後太一所長と國廣悌二副所長,佐々木節教授にシンポジウムの内容と,そこでの議論を踏まえての素粒子論の展望を聞いた。

 

 素粒子論を取りまく現状を考えてみると,時代状況は湯川と朝永が未踏の素粒子物理に挑もうとした時代にかなり近いようにも思える。当時,湯川と朝永の前には原子核という未知の世界があり,その世界を支配する未知の強大な力「核力」の存在が浮かび上がっていた。場の理論は,量子の世界を理解するのに非常に有効な道具だと思われていたが,まじめに計算すると電荷や質量などが無限大に発散してしまうという難問があった。

 

 現在,私たちの前には,未踏の大統一理論が予想する宇宙誕生直後の超高エネルギーの世界があり,そこでは標準モデルに属する3つの力(強い力,弱い力,電磁気力),もしかしたら重力をも統合した未知の力が姿を現している。超高エネルギーの世界は,超極微の世界に通じる。その超極微の世界をのぞき見る顕微鏡があったとしたら,そこには10次元の「ひも」が振動しているのが見えるかもしれない。

 

 素粒子論の最前線では時間すら存在しない世界を取り扱う理論が研究されている。その1つは「ひも」を一種の数表,「行列」として表現する京都大学の川合光らによる行列モデルだ。川合らのように,どのような数学的表現をすれば究極理論に迫れるのか模索が続いている。それは自身の頭脳を頼りに「紙と鉛筆」で新たな世界を切り拓いた湯川と朝永に通じる。

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