日経サイエンス  2007年2月号

北斗七星と東洋の星座

宮島一彦(同志社大学)

 平安時代,清少納言は枕草子で「星はすばる」とその美しさを讃えた。同じすばる(昴)を,1000年後の現代に生きる私たちも冬の夜空に眺めることができる。すばるは「ひとつにまとまる」意の「統(す)まる」から来た和名で,中国名の「昴(ぼう)」の字が当てられた。6個の星が見えることから六連星(むつらぼし)とも呼ばれた。ヨーロッパではその美しい星々の群れはプレアデスと名付けられている。ギリシャ神話の巨神アトラスの7人の娘のことだ。

 

 同じく冬の星座オリオンと,夏の星座さそり座は「追いかけ伝説」で知られる。一方が東から昇る頃,他方が西に沈む。ギリシャ神話でさそりに刺し殺されたオリオンは,星座になっても,さそりが昇ると逃げるように沈むという。中国にも「参商(しん・しょう)相見ず」という言葉があり,仲が悪い,あるいは遠く隔たって会わないたとえに使われる。オリオンのベルトにあたる三つ星が「参」で,さそり座のα星(アンタレス)とその前後のσとτをあわせた3星が「商」だ。このように同じ星の並びに対して,民族によってさまざまな連想がなされている。

 

 中国では農業の発達とともに,目立った星や星座は季節の目印として星座が作られ,天体の運行を把握する基準ともされた。

 

 

再録:別冊日経サイエンス210「古代文明の輝き」

著者

宮島一彦(みやじま・かずひこ)

同志社大学理工学研究所教授。専門は東アジア天文学史で,特に暦法や天文儀器,星図史を研究している。

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