
祖父が最初に私に教えてくれた星座はおおぐま座だった。それから私は古い双眼鏡を目に当てて夜空を見上げ,ほかの星座を見つけたり,勝手に星座を作ったりして楽しんだ。当時の私は星座がいつ誕生したのか考えたり,星座の起源について思いをめぐらしたりはしなかったが,天を彩る不思議な絵は,魅惑的な科学の謎を投げかけながら,そこに存在していた。
国際天文学連合は1922年に88個の星座を公式に定めた。題材はほとんど,紀元後150年ごろのプトレマイオス(Ptolemaios Klaudios)の著作『アルマゲスト』からとられている。当時のギリシャの宇宙観をまとめたものだ。『アルマゲスト』に描かれている伝承は,紀元前275年にアラトス(Aratos)が記した叙事詩の“ベストセラー”『現象』によって一般に広まっていた。
天文学者ヒッパルコス(Hipparcos)の唯一現存する著書で,紀元前147年に著された『注釈』によれば,アラトスの詩の大部分は,エウドクソス(Eudoxos)の紀元前366年の同名の著書(現存しない)を書き改めたものだという。これらがギリシャの空に関する最古の記述を含む文献だが,星座はすでに完成されたものとして描かれている。ギリシャの星座は,いつ,誰によって,どのように作られたのだろうか。
星座の歴史をたどるには,ギリシャ時代のはるか昔へとさかのぼらなければならない。星座は世界で発生したどの文化にも存在している。人工的な明かりの影響で夜空が薄明るくなる前は,太古から人々は天を動いていく星々を眺めていた。人間にパターン認識の能力が備わっていることを思えば,近くにある星をひとつのまとまりとしてとらえることが古くから世界中で行われていても不思議はない。
著者
Bradley E. Schaefer
ルイジアナ州立大学物理天文学科教授。マサチューセッツ工科大学,大学院修了。星空を技術面からとらえ,その情報を天文学の歴史に応用する研究に20年以上取り組んできた。Journal for the History of Astronomy and of Archaeoastronomy誌の編集委員を務めている。
原題名
The Origin of the Greek Constellations(SCIENTIFIC AMERICAN November 2006)