日経サイエンス  2007年2月号

携帯電話を脅かすウイルス

M. ヒッポネン(エフ・セキュア)

 コンピューターセキュリティー業界で,何年も前から懸念されていた事態が2004年6月についにやってきた。ウイルスなど悪意を持って作られたソフトウエア(マルウエア)を調べている私たち研究者は,携帯電話にもコンピューターと同様にマルウエアが現れるのは時間の問題だとわかっていた。

 

 携帯電話は高機能な「スマートフォン」に発展し,インターネットからプログラムをダウンロードしたり,短距離無線技術のブルートゥース,世界中に送信できるMMS(マルチメディアメッセージングサービス),着脱式のメモリーカードなどによって他人とソフトウエアを共有できるようになったが,こうした新機能がモバイル機器に新たな脆弱性を生み出した。悪い連中がこの弱点を見つけ出して,いたずらをしたり,さらには犯罪を犯して利益を得ようと悪用するのも当然なのだ。

 

 案の定,2004年夏,セキュリティーの専門家たちは,スマートフォンを狙って作られた最初の有害なプログラムを見つけ出した。

 

 「Cabir」と呼ばれるこのプログラムは昔ながらのコンセプト検証ウイルスで,作ったことを自慢するためのものだった。このウイルスに感染しても,携帯電話のブルートゥース接続を通じて他のスマートフォンにウイルスを送り続けるだけで,携帯電話の電池が消耗する以外に被害はない。おそらくスペインのどこかにいると思われる制作者の目的は,Cabirをネットワーク上に放つことではなく,ウェブサイトで公表することのようだ。しかし,その後2カ月以内に別の不届き者が東南アジアにこのウイルスを解き放ったために,あっという間に世界中に蔓延してしまったのだ。

著者

Mikko Hypponen

ヘルシンキにあるコンピューターセキュリティー会社エフ・セキュアでウイルス研究所の主任研究員を務めている。携帯電話メーカーおよびネットワーク事業者に対するコンサルティングに従事。ウイルスと日夜戦う彼のチームは,彼がエフ・セキュアに在籍しているこの15年間にわたって,多数のウイルスを世界で最初に確認し,それに対抗する手段を見つけてきた。その中には2000年の悪名高いワーム「Loveletter」も含まれている。2冊のコンピューターセキュリティーに関する本の共著者であり,マイクロソフト,米連邦捜査局(FBI),米財務省検察局,ロンドン警視庁の調査にも協力している。

原題名

Malware Goes Mobile(SCIENTIFIC AMERICAN November 2006)

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