日経サイエンス  2007年1月号

超新星爆発はこう起きる

W. ヒルブラント H.=T. ヤンカ E. ミューラー(マックスプランク天体物理学研究所)

 1572年11月11日,デンマークの天文学者,ティコ・ブラーエは木星と同じくらい明るく輝く新しい星をカシオペア座の中に見つけた。それは近代天文学の始まりとなった。天は固定され,変化することはないというそれまでの信念への“輝ける反証”だったからだ。約400年後,天文学者はこのような「超新星」が短期間だが,普通の星の何十億倍もの明るさで輝くこと,つまり,そのとき華々しい爆発を起こしているに違いないと気づいた。

 

 爆発は2通りある。1つは「爆縮」という現象によって星の中心部が落ち込むとき,星の外側の部分をバラバラに吹き飛ばすほどの重力エネルギーを放出することによって起こる。もう1つは巨大な核爆発によるものだ。理論研究と観測が進んできたが,コンピューターシミュレーションでは超新星の詳細な特性はおろか,爆発自体を再現するのが非常に難しかった。

 

 核爆発タイプの超新星については,ここ数年でようやく,説得力のある理論モデルができあがった。化学燃焼や気象の研究のために開発された方法を発展させたものだ。星内部を3次元でシミュレーションしたところ,マッシュルームがいくつも組み合わさったような複雑な構造が現れた。核反応によって生み出された熱い泡が,星の中心近くから星表面に向けて昇っていく途中,乱流によってデコボコにされ引き伸ばされてできたものだ。乱流の影響で核融合反応が加速されるために,星はわずか数秒で爆発した。

 

 星中心部の重力崩壊で起こる超新星は説明するのがより難しい。爆縮で生み出された衝撃波はエネルギーをすぐに消費してしまうのだ。それが近年,爆縮の際に生まれた膨大な量のニュートリノが星中心部を取り囲む層を加熱することでプラズマが生じ,このプラズマによって,浮力で上昇する泡とマッシュルームのような形をしたプルームが作り出されることが,多次元シミュレーションでわかってきた。対流によって衝撃波へ運ばれたエネルギーが衝撃波をさらに外へと押し,爆発の引き金を引くようだ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス200「系外惑星と銀河」

著者

Wolfgang Hillebrandt / Hans-Thomas Janka / Ewald Müller

3人はドイツ・ガルヒンクにあるマックスプランク天体物理学研究所(MPA)の研究者であると同時にミュンヘン工科大学で教鞭をとる。ヒルブラントはMPAに3人いる所長の1人。主な研究分野は原子核天体物理学と星の進化,超新星爆発。この分野を選んだのは「本当に大きな爆発」に興味を引かれたためという。高速中性子の捕獲による核合成の研究で1982年にドイツ物理学会の物理学賞を受賞した。冬はスキー,夏はヨットを楽しむ。ヤンカはニュートリノ天体物理学と中性子星の進化,超新星とガンマ線バーストに興味を持っている。博士課程に入学した1カ月後,超新星1987Aが出現し,彼の進路はまったく違ったものになってしまった。余暇には絵筆をとり,手工芸も趣味。ミューラーは計算天文学・相対論的天文学研究グループのリーダー。1993年,ヤンカとともに科学計算の業績でハインツ・ビリング賞を受賞した。天体物理学へ進むきっかけはSF小説だった。今でもSFの大ファンで,バイエルン・アルプスでのハイキングも楽しむ。

原題名

How to Blow Up a Star(SCIENTIFIC AMERICAN October 2006)

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