日経サイエンス  2007年1月号

自在に動く玉乗りロボット

R. ホリス(カーネギーメロン大学)

 カーネギーメロン大学で,高さ1.5mの動く巨大ボールペンのようなロボット「ボールボット」が開発された。このロボットはサーカスの玉乗り曲芸をするピエロのように1つのボールを制御して,倒れることなく自由自在に動き回ることができる。

 

 知能を備えた移動ロボットが家庭やオフィス,路上などで人間と共存するには,動きの正確さと優雅さはもちろん,ある程度の身長が必要だ。現在,試験段階の移動ロボットの多くは複数の車輪で移動するが,車輪間隔を長くとる結果,窮屈で雑然とした日常の生活環境の中では動きが制約される。

 

 細身で背が高く,1個のボール型をした車輪でバランスをとりながら軽快に動くボールボットは,構造が単純なほか,重心の高さを生かしてあらゆる方向に素早く移動できる。バランスを維持するには,重力が働く方向を常に把握することが必要だが,ボールボットでは鉛直方向を常時計測し,コンピューターが1秒間に何百回も計算してボールの動きを制御,倒れないようにバランスをとりながら,目的の方向に移動する。

 

 お手伝いロボットなど日常生活の中で人間を補助する未来のロボットには,ボールボットのような移動の柔軟性が不可欠だ。階段など段差は乗り越えられないので,将来的には人型ロボットのように2足歩行をするほうがよいだろう。だが,ボールボットは移動ロボットが機能的で器用に人と生活するには何が必要かを探る糸口になる。

 

 

再録:別冊日経サイエンス179「ロボットイノベーション」

著者

Ralph Hollis

カーネギーメロン大学ロボット研究所の教授で,電子コンピューター学科にも籍を置く。1975年,コロラド大学ボールダー校で固体物理学のPh. D. を取得。1993年にカーネギーメロン大学に赴任する以前は,航空機メーカーのノースアメリカン社やIBMワトソン研究所に勤務していた。現在の主な研究テーマはエージェントを基礎においたマイクロマシン組み立てや,触覚を通じた人間とコンピューターの意思疎通,動的安定な移動ロボットなど。

原題名

Ballbots(SCIENTIFIC AMERICAN October 2006)

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