
素燃料電池車は有力な選択肢だ。安全で,高価でなく,耐久性があり,連続走行距離の長いモデルを開発できれば,商品として十分に可能性がある。また,大量の水素をガソリンに対抗しうる価格で供給することも可能。配送・供給の基盤整備が課題といえる。
自動車など輸送機器向けにクリーンエネルギー源を開発することが,おそらくエネルギー問題で最大の難題だ。ことを難しくしているのは2つの事実。まず,いま世界に7億5000万台ある自動車が2050年までに3倍に増えるとみられること。2つめは,いま現在,輸送機器向け燃料の97%が石油に依存しているという事実だ。
石油の消費拡大を抑え,自家用車やトラックからの温暖化ガス排出を抑制するには,短期的には燃費を改善するのが最善の道だ。しかし,自動車各社が車の効率を3倍にし,各国政府が公共輸送機関の利用を推奨して自動車への依存を減らしても,世界の自動車台数が爆発的に増えるせいで,石油消費も二酸化炭素(CO2)排出も削減は極めて難しい。
大幅削減には,石油以外の低炭素燃料に切り替える必要がある。長期的にみると,自動車を電力網に接続するか,燃料として水素を使うのが最も妥当だ。燃料電池車は技術的な障害が少なく,自動車メーカーやエネルギー産業,政府関係者などから強く支持されている。現在のガソリン車に比べて効率が数倍高く,排気管から出るのは水蒸気だけだ。
さらに,水素は温暖化ガスの排出なしに製造できる。例えば水の電気分解によって水素を作る場合,その電力を太陽電池や風力発電,水力発電,地熱発電といった再生可能エネルギー源でまかなえばよい。水素を天然ガスや石炭から抽出する場合も,炭素を含む副生物を回収して地下に隔離できる。
しかし,水素社会を実現するには多くの難題を乗り越えねばならない。クリーンな技術によって水素を作らなくてはいけないし,水素製造・供給のインフラストラクチャーを新たに構築して,現在のガソリン精製・供給の仕組みを置き換えていく必要がある。水素社会への移行は短距離走ではなく,マラソンになる。この点を認識することが重要だ。
著者
Joan Ogden
カリフォルニア大学デービス校の環境科学・政策の教授で,同校の輸送研究所が進める水素交通プログラムの共同代表者。代替燃料や燃料電池,再生可能エネルギー,省エネなど新エネルギー技術の技術・経済評価が専門。メリーランド大学から1977年に理論物理学でPh. D. を取得。
原題名
High Hopes for Hydrogen(SCIENTIFIC AMERICAN September 2006)
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