日経サイエンス  2006年12月号

特集:エネルギーの未来

原子力を生かす道

原子力

J. M. ドイチ E. J. モニス(マサチューセッツ工科大学)

 原子力発電は世界の電力量の1/6を占め,水力発電と並ぶ二酸化炭素(CO2)を排出しない「カーボンフリー」エネルギーの代表格だ。原子力発電はこれまでチェルノブイリやスリーマイル島のような悲惨な事故を引き起こしてきたが,近年,安全性は着実に向上し,発電効率も高まっている。世界では十分な量のウランが産出されており,今よりはるかに多くの原子炉が稼働して,それらの耐用年数を40年~50年と見積もっても,供給に心配はない。

 

 2003年,私たちが中心になってマサチューセッツ工科大学で「原子力発電の将来」と名付けた大規模な研究プロジェクトを実施,原子力発電を選択肢として残すには何が必要かについて分析した。

 

 その際,2050年までに世界の原子力発電の利用規模が現在の3倍の10億kWまで増えると仮定した。天然ガスや石炭で同量の発電をした場合,CO2が年間8億~18億トン(炭素換算)排出される。温暖化対策として,2050年までに年間70億トン(同)のCO2排出削減が求められているが,原子力発電で代替すれば大きな貢献を果たすことになる

 

 原子力発電をこれだけ広めるには,どんなタイプの原子力発電所を建設するのが望ましいだろうか。まず核燃料の使い方について考えてみよう。使い方には2通りある。1つは「オープンサイクル」いわゆる「ワンススルー」と呼ばれる方式で,ウランを原子炉で1回だけ“燃焼”した後,使用済み燃料を地下の処分場に埋める。

 

 もう1つは「クローズドサイクル」という方式で,使用済み燃料に含まれる燃え残りのウランと新たに生み出されたプルトニウムを抽出して,再び核燃料として利用する。この方式を支持する科学者もいる。日本やフランスなどではクローズドサイクルが採用されている。

著者

John M. Deutch / Ernest J. Moniz

2人はマサチューセッツ工科大学の教授で,2003年に実施した学際研究「原子力発電の将来」のリーダー。現在は石炭の将来性に関する研究プロジェクトに取り組んでいる。ともに政府の要職を歴任している。ドイチはエネルギー研究ディレクターおよびエネルギー省次官(1977年~1980年),国防副長官(1994年~1995年),CIA長官(1994年~1996年)を務めた。モニスは科学技術政策室科学担当次長(1995年~1997年),エネルギー省次官(1997年~2001年)を務めた。

原題名

The Nuclear Option(SCIENTIFIC AMERICAN September 2006)

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