
多くの人がすでに気づいているとは思うが,気候変動を論じることは石炭火力発電から出る排ガスについて議論することでもある。私たちは石炭を消費して電力を作り出し,二酸化炭素(CO2)を大気中に排出しているからだ。CO2排出量をただちに厳しく制限しない限り,人類が地球温暖化を食い止められる見込みは少ない。
そもそも石炭は産業革命の原動力となった燃料だが,エネルギー源としてはきわめて厄介な燃料なのだ。石炭を燃やすと,石油や天然ガスに比べて単位発電量当たりかなり大量のCO2が発生する。しかも価格は安く,石油や天然ガスの埋蔵量が乏しくなっても大量に産出できるのだ。豊富で安価な燃料であるがゆえに,米国をはじめ世界各国で石炭火力発電が増えており,これから先も増加が続くとみられている。
実際に米国の電力業界は,2003年から2030年までに50万kW級の火力発電にして280基に相当する発電所を新規に建設する。一方,中国では次々と発電所が建設され,大型石炭火力発電所を毎週1基ずつ増やすのに匹敵する。発電所の寿命はおよそ60年。2030年までに運転を始める新設発電所が,寿命までに排出するCO2の総量は,産業革命の幕開けから現在までの総量とほぼ同じになる。
石炭火力発電所の建設ラッシュは気候変動への懸念を強めるだけでなく,自然環境や人々の健康・安全面においても不安材料となる。石炭を採掘すると山容は破壊される。有害排出物で大気は汚染され,鉱山からの廃液で水質は汚される。坑夫は危険にさらされ,生命すら脅かされているのだ。こうした影響を考えると,石炭を生産して有効なエネルギーに変換するのは地球上でもっとも破壊的な活動といえるのだ。
私たちは石炭のエネルギー変換に伴って発生するCO2を大気に排出するのを防ぐ手法に焦点を当てる。幸いにも,CO2排出抑制技術はすでに存在しているのだが,即座に実行に移す決断力がいまだ欠けている。
著者
David G. Hawkins / Daniel A. Lashof / Robert H. Williams
3人は数十年来,気候変動の抑制に取り組んできた。ホーキンズは天然資源保護協会(NRDC)の気候センター長で,35年にわたって大気,エネルギー,気候の問題に携わり,政府の環境・エネルギー問題に関する多数の諮問団体で委員を務める。ラショフはNRDC気候センターの科学部長兼副センター長で,1989年から自然エネルギー政策,気候科学,地球温暖化対策に焦点を当てている。NRDCに所属する以前は米国環境保護局で地球気候安定化のための政策案の策定に携わっていた。ウィリアムズは1975年からプリンストン大学に所属する上級研究員。同大学のプリンストン環境研究所で,BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)とフォードが協賛する炭素排出抑制イニシアティブの下でエネルギーシステム/政策分析グループと炭素回収グループを主導している。
原題名
What to do about Coal(SCIENTIFIC AMERICAN September 2006)
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