日経サイエンス  2006年12月号

特集:エネルギーの未来

まずは車を見直そう

自動車

J. B. ヘイウッド(マサチューセッツ工科大学)

 世界の豊かな国々のほとんどの人々は,本音では,現在の自動車による交通システムの恩恵を認めざるをえないだろう。1人でも,家族や友人と一緒でも,家の玄関先から荷物を積んで,いつでもどこへでも移動できる。貨物配送網が張り巡らされ,商品を運んで私たちの生活を支えている。それなのになぜ,交通機関を動かすエネルギーが将来の環境に及ぼす影響について心配しなければならないのだろうか。

 

 問題は交通システムの規模が大きく,さらにそれが確実に拡大していることだ。交通システムは,石油燃料(ガソリンと軽油)をきわめて大量に使用する。石油燃料に含まれる炭素は,燃焼の際に酸化して,温暖化ガスである二酸化炭素(CO2)となる。こうした燃料を大量に使用すれば,大気に放出されるCO2の量もやはり膨大になる。世界全体の温暖化ガス排出量の25%は交通・輸送によるものだ。

 

 今後,途上国でモータリゼーションが急速に進めば,世界の燃料需要増大は,大気中の温暖化ガス濃度抑制に最大級の難題を突きつけることになる。

 

 他の国々が米国と同じだけガソリンを消費すると,全世界の消費量は10倍近くはね上がる。将来,コストを極端に上げずに持続可能な輸送を実現するには,どんな対策が考えられるだろうか。

著者

John B. Heywood

マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学スンジェ記念教授兼スローン自動車研究所所長。 ケンブリッジ大学とMIT で学び,1968年からMIT で教鞭をとる。広く使用されている教科書 「Internal Combustion Engine Fundamentals」(McGraw-Hill, 1988)の著者であり,米工 学アカデミーおよび米芸術科学アカデミー会員。

原題名

Fueling Our Transportation Future(SCIENTIFIC AMERICAN September 2006)

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