日経サイエンス  2006年12月号

特集:エネルギーの未来

エネルギー安全保障と一体化した取り組み

日本の戦略

十市勉(日本エネルギー経済研究所)

 エネルギー問題への関心が内外で高まっている。2度のオイルショックが起きた1970年代以来のことだ。石油や石炭など化石燃料の大量消費に伴う二酸化炭素(CO2)の大気中への放出が地球温暖化をもたらし,異常気象のリスクが高まる一方,原油価格の高騰を背景に産油国では資源ナショナリズムが高まり,石油が再び政治商品化している。温暖化抑制のため化石燃料の使用削減が求められると同時に,経済発展にとって不可欠なエネルギーの安定供給の確保が必要だ。

 

 エネルギー戦略は温暖化対策とエネルギー安全保障を一体化させる必要があり,それが世界の大きな潮流となっている。では日本はどのようなエネルギー戦略をとるべきか。原油価格高騰や中国・インドの台頭,中東紛争に代表される地政学的リスクの増大など内外情勢の変化を踏まえ,今年5月末,経済産業省は「新・国家エネルギー戦略」を発表し,官民の緊密な協力のもとに最大限の取り組みを進めることを決めた。

 

 戦略は3つの基本的視点のもとに策定された。1つは,日本のエネルギー需給構造を世界で最も進んだものにすること。2つめは資源外交・エネルギー環境協力の総合的強化。第3点は緊急時対応策の充実だ。エネルギー供給上のリスクが多様化する中,エネルギー利用効率の向上とエネルギー源の多様化・分散化,エネルギー供給余力の保持が最も確実な対応策だとしている。

 

 このような考え方に基づき,新戦略では,2030年を目標年とする5つの数値目標を設定している。

 

(1)国内総生産(GDP)当たりのエネルギー消費原単位(同じGDPを実現するのにどれほどのエネルギーを

   消費するのかを示す指標)を少なくとも30%改善する。

(2)1次エネルギー(発電や燃料製造などのもとになるエネルギー)供給に占める石油依存度を,現在の50%弱

   から40%以下に下げる。

(3)運輸部門の石油依存度を,現在のほぼ100%から約80%まで下げる。

(4)発電量に占める原子力発電の比率は現行では約1/3だが,2030年以降でも,その割合を30~40%以上にする。

(5)日本企業による原油の自主開発比率を,現行の約15%から40%に高める。

 

 これらの目標はいずれもハードルが非常に高いが,達成の難易度には大きな差があると考えられる。

著者

十市勉(といち・つとむ)

日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。東京大学大学院理学系研究科(地球物理学)を修了,理学博士。同研究所に入り,マサチューセッツ工科大学エネルギー研究所客員研究員などを経て現職。エネルギー問題全般に取り組み,総合資源エネルギー調査委員会など政府の各種審議会委員を歴任している。

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