日経サイエンス  2006年12月号

特集:エネルギーの未来

特集:エネルギーの未来 北極がとけぬうちに

プロローグ

G. スティックス(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 過去数百年,多くの探検家が大西洋から氷の北極海を経て太平洋へ至る航路の確立を試み,おおかたは飢えと壊血病の末に失敗に終わった。だが地球温暖化によって,あと40年もしないうちに,クック船長らが夢見た航路が現実となってパナマ運河と張り合うことになる公算が大きい。

 

 氷河の融解,海流の乱れ,記録的熱波は,洪水や疫病,ハリケーン,干ばつなどの黙示録的な終末へ向かってじわじわ進んでいる。毎月毎月,二酸化炭素(CO2)濃度上昇の悪影響を報じるニュースは数を増す。

 

 地球温暖化の有無を論議する時代は終わった。現在の大気中CO2濃度は400ppmに近づきつつあり,過去65万年間で最も高い。抜本的な策を講じないと,2050年までに500ppmをあっさり超えてしまうだろう。

 

 このままでは,地球大気は温室から高温乾燥室へと変わってしまう。この変質を防止することは,人類がこれまで直面したなかで最も手強い科学・技術上の難問だろう。CO2排出量の増加を抑えるため,工学的・政治的資源を全世界で100年以上にわたって継続的に組織管理することに比べれば,月着陸計画などお茶の子さいさいに思えるほどだ。

 

 脱炭素エネルギー基盤を構築しつつ経済成長を育むための具体的な青写真が必要となる。バイオ燃料や太陽エネルギー,水素,原子力など多数の技術によって低炭素のエネルギー供給を実現する。本特集では各分野の専門家にこれらすべてのアプローチを概説してもらったほか,宇宙太陽光発電や核融合など,より革新的なアイデアも取り上げた。

 

 温暖化の程度とペースについて不確実さが残っているのは事実だ。だが何の行動も起こさずにいたら,過度に心配されてきた経済的打撃よりもずっと悲惨な結果を招きかねない。万年雪が消えるまで待っていては,もはや手遅れなのだ。

原題名

A Climate Repair Manual(SCIENTIFIC AMERICAN September 2006)

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