
傾いた楕円軌道をめぐる奇妙な衛星が続々と見つかってきた。ふつうの衛星とは生い立ちがまるで違う。太陽系初期の発達の様子を知る新たな手がかりとなる。
衛星はほとんどが母惑星を取り巻く円盤から生まれたと考えられていた。太陽系そのものの形成と同様の過程が,惑星の周りで小規模に起こったという考え方だ。こうしてできた衛星の軌道は惑星の赤道面にのり,運動の方向は惑星の自転と同じ向きになる。ただ,このパターンに合致しないものが少数ながら知られ,“不規則”な衛星という意味で「不規則衛星」と呼ばれてきた。
近年,先進的なデジタル検出器を使った観測で多くの不規則衛星が見つかり,実はこれらが多数派であることがわかった。軌道は長い楕円で,母惑星の赤道面に対して斜めに傾いている。これは不規則衛星がその場で誕生したのではなく,もともとは太陽を周回する軌道をめぐっていたことを示す。小惑星や彗星を何らかの形で惑星が捕捉したのだ。
捕捉の過程については3つのメカニズムが提唱されている。そのうち最も妥当と考えられるのは「3体捕捉」というモデルで,2つの小天体が惑星の近くで衝突するかニアミスを起こし,片方が惑星を周回する軌道に入ったと考える。初期の太陽系は現在に比べると天体が密集しており,こうした相互作用がよく起こったとみられる。
そもそもこれらの小天体がどこから来たのかは,よくわかっていない。海王星の外側のカイパーベルトからやってきたのかもしれないし,もっと近くで生まれた可能性もある。
著者
David Jewitt / Scott S. Sheppard / Jan Kleyna
3人は多数の衛星を発見したことで知られる。ジューイットが天文学に興味を持ったのは7歳,ロンドン北部工業地域の夜空に,ナトリウムランプの光に負けずに輝く素晴らしい流星群を見て驚いたときにさかのぼる。現在はハワイ大学教授で,米国科学アカデミーの会員。シェパードはジューイットの教え子で,最近,ワシントン・カーネギー研究所の地磁気部門のハッブル・ポスドク研究員になった。クレーナはメイン州の農場で育ち,現在はハワイ大学のポスドク研究員。前衛映画を観るのが楽しみだが,主な研究テーマは矮小銀河における暗黒物質だ。
原題名
The Strangest Satellites in the Solar System(SCIENTIFIC AMERICAN August 2006)
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