日経サイエンス  2006年11月号

サイエンス・イン・ピクチャー

よみがえれ富士山測候所

文・写真 中島林彦(編集部)

 日本最高地点,富士山頂の剣ヶ峯頂上(標高3776m)に建つ富士山測候所。流れる雲の上にそびえるその姿はまさしく天空の城だ。東京オリンピックがあった1964年に建設され,翌年には富士山レーダーが稼働,太平洋上の台風の監視を始めた。強固なコンクリート基礎の上に頑健な鉄骨パネル構造で建設された4棟の建物などからなり,延べ床面積は約720m2。業務に関係する観測室や通信室,工作室などのほか6つの個室,食堂と居間,娯楽室を完備し,風呂にも入れる。

 

 零下30℃,風速30mを超える厳冬期でも5~6人の職員が詰める気象観測の最前線基地だったが,時代は移り,気象衛星による観測の充実に伴って1999年にレーダーの運用を終了,自動観測技術の進展を受け2004年9月末をもって職員の常駐も終えた。

 

 レーダーやマイクロ波通信設備などは撤去されたが,今のところ施設は維持され,夏場は職員が詰めて保守にあたっている。気象庁は測候所の活用策の検討委員会を組織,2005年3月には「極地高所研究の拠点」として利用する方針を打ち出した。運営主体をどうするか,年間1億円近くに達する維持費の手当てなどの課題はあるが,天文学や大気化学,生態学,高所医学などさまざまな分野の研究者から研究拠点として再生を望む声が出ている。

 

 研究者らは協力してNPO法人「富士山測候所を活用する会」を立ち上げた。気象庁の検討会にも参加,研究拠点として再生するための議論を深める。一般からの理解と支援を得るため国際シンポジウムを開いたほか,今夏には測候所見学会を開催,施設の現状を多くの人に見てもらった。今後は東京などで定期的に「富士山学校・科学講座」を開く予定だ。理事長を務める浅野勝己筑波大学名誉教授は「研究拠点としての測候所の運営主体になることを含め,会の活動を本格化させたい」と話している。

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