日経サイエンス  2006年10月号

エイズ治療薬の新戦略

G. スティックス(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 ウイルス学の分野では,これまでHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の増殖サイクルの各段階について詳しく調べるため,膨大な研究費をかけてきた。ウイルスが免疫細胞に結合して細胞内に侵入するところから,複製し,宿主から新しいウイルスを放出して,餌食となる新たな細胞を探すところまで,あらゆる段階を研究している。主要な抗HIV薬で最も新しいタイプは10年ほど前に登場したプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)阻害剤で,ウイルス複製の後期に重要な役割を果たす酵素の作用を抑制するものだ。

 

 当時,ほとんどのHIV研究者はプロテアーゼ阻害剤が治療の基盤になると考えた。しかし,HIVの巧妙な仕組みによって,その望みは絶たれた。米国で治療中のHIV感染者の半数が,処方可能な薬剤のうち少なくとも1つに耐性を持つウイルスに感染していることが明らかになったのだ。

 

 医師はプロテアーゼ阻害剤と,ウイルスの遺伝子がコピーされるのを防ぐ2つのタイプの逆転写酵素阻害剤と合わせて20種以上から選択して,ウイルスの増殖を食い止めている。薬剤を組み合わせれば,ウイルスが多少変異を起こしても対処できる可能性が高くなるが,プロテアーゼ阻害剤への耐性が生じるのを防げるわけではない。

 

宿主細胞に侵入したウイルスの初期,中期,後期におけるプロセスを妨げる薬剤はさまざまな開発段階にある。マサチューセッツ州にあるバイオベンチャーのパナコスは,プロテアーゼ阻害剤の成功に着想を得て,いままでにない手法でプロテアーゼ活性を阻止する「成熟阻害剤」という薬剤候補を,大学の研究者とともに開発している。

 

 プロテアーゼ阻害剤はHIVのプロテアーゼに直接作用して,プロテアーゼがGAGタンパク質というウイルスタンパク質を処理するのを防ぐものだ。GAGタンパク質が適切に切断されてしまうと,それらの断片が再結合して,円錐形の保護殻「キャプシド」を形成する。このキャプシドの中にウイルスのRNAが収まっている。

原題名

A New Assault on HIV(SCIENTIFIC AMERICAN June 2006)

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