日経サイエンス  2006年8月号

大いなるアマゾン その誕生の謎

C. ホールン(生物多様性・生態系ダイナミクス研究所=オランダ))

 アマゾン川を上空から見下ろすと,雄大な主流だけにとどまらず,広大な範囲を水が支配していることに,いやがうえでも気が付くだろう。アマゾン川は太平洋岸のペルーの高地に端を発して,南米大陸を横断し,ブラジルから大西洋に注ぐ。総延長は6500km。雨期には氾濫した水が川岸のジャングルを広範囲にわたって水浸しにするうえ,洪水時に浸水する氾濫原には無数の湖が年間を通じて不規則に広がっている。

 

 アマゾン川は地球上で最も多様性に富む熱帯雨林を育んでおり,その面積は合計250万km2にもなる(日本の面積の約6.5倍)。だが,川と森との密接な関係が実際にどれほど昔から続いてきたのか,最近までわかっていなかった。現在「アマゾニア」と呼ばれているこの広大な地帯は非常に近づきにくい場所にある。そのため誕生当時のアマゾン川とその周辺のジャングルに関する長年の定説は単なる推測でしかなかった。従来の考えでは,この一帯は長期間にわたって浅い海に覆われており,現在のような生物多様性の高さを誇るジャングルが成立したのは比較的最近だとされてきた。

 

 ここ15年間でこの地域の岩石や化石の研究が行われ,ようやくアマゾニアの歴史の全体像が詳しくわかるようになってきた。アマゾン川は何百万年も続いた複雑な過程を経て誕生したこと,またアマゾン川の発達がこの土地に固有の動植物の進化に多大な影響を与えてきたことが明らかになった。

 

 現在では次のような説が有力になっている。初期のアマゾン川は大西洋に直接流れ込むのではなく,南米大陸の中央部にたくさんあった湖を結びつけて潤していた。この絶えず変化する湿地帯が水生生物と陸生生物の両方にとって理想的な環境だったため,アマゾニアに固有の動植物は以前に考えられていたよりもかなり早い時期からこの地に生息していたというのだ。この新しい解釈なら,普通は海にしかいないイルカやエイのような生物が,現在もアマゾニアの内陸の湖に生息していることにも説明がつく。

著者

Carina Hoorn

オランダのアムステルダムにある生物多様性・生態系ダイナミクス研究所の地質学者で,花粉解析を専門とする。1994年にアムステルダム大学で博士号を取得。その後,ロンドン大学インペリアルカレッジで科学コミュニケーションを学び,2004年に修士号を取得した。アマゾニアやアンデス山脈,ヒマラヤ山脈,オマーンの河川を調査し,堆積環境が植生に与える影響を明らかにしようとしてきた。現在は科学的研究に加え,オランダのライスワイクにあるシェル社のため石油・ガス探査および生産の新技術に関する調査を行っている。

原題名

The Birth of the Mighty Amazon(SCIENTIFIC AMERICAN May 2006)

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アマゾニア中新世堆積層カワイルカ貝の成長線花粉解析