日経サイエンス  2006年7月号

太陽フレア発生の謎を解く

G. D. ホルマン(NASAゴダード宇宙飛行センター)

 太陽を取り巻く大気の最外層(コロナ)で起こる大爆発「フレア」は,たった数分間に原子爆弾数十億個分のエネルギーを放出する。フレアの最中,大量のプラズマ(電離ガス)が突発的に放出されることもある。「コロナ質量放出」と呼ばれる現象で,放出された膨大な量の高エネルギー荷電粒子は地球周辺にも到達し,科学衛星や通信衛星などは機能の一時停止を余儀なくされ,高緯度地方では停電が起きることもある。

 

 フレアとコロナ質量放出の間にはどんな関係があって,何がこれらを引き起こすのか?長い間,謎だったが,ここ10年で両者の複雑な関係や,その背後に潜む物理的メカニズムの解明が進んだ。その最初の手がかりは,日本の太陽観測衛星「ようこう」によってもたらされた。フレアには非常に波長が短い(エネルギーが高い)X線を放つ超高温ガスが含まれるが,従来の太陽観測衛星はそれほど短波長の領域まではカバーしていなかった。「ようこう」によって初めて,フレアの振る舞いを超高温ガス込みで撮像観測できるようになった。

 謎解きのカギはコロナ中で突然起きる磁場構造の変化にあった。通常,磁力線は太陽表面からアーチ状に立ち上がって磁気ループを形成する。例えば磁気ループがくびれて磁力線が近接すると,磁力線のつなぎかえ(磁気再結合)という現象が起き,磁場のエネルギーが一気に解放される。一部の磁力線は太陽から切り離され,磁力線によってとらえられたプラズマもろとも宇宙空間に向けて急速に飛び去る。これが「コロナ質量放出」として観測されると考えられる。

著者

Gordon D. Holman

NASAゴダード宇宙飛行センター太陽・宇宙空間物理研究所で研究を行っており,RHESSI衛星の共同研究者のひとり。ノースカロライナ大学チャペルヒル校で天文学のPh.D.を取得した。プラズマ物理学を使って,天体物理学の観測結果の解釈に取り組む。NASAの同僚とともにインターネットを通じた太陽物理学の解説記事の執筆にも力を注いでいる。

原題名

The Mysterious Origins of Solar Flares(SCIENTIFIC AMERICN April 2006)

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