日経サイエンス  2006年7月号

グローバリゼーションは貧困を救うか

P. バーダン(カリフォルニア大学バークレー校)

 世界のグローバル化,それに貧困と不平等にまつわる問題が,国際テロや地球温暖化といった問題と同様に議論の対象になっている。私の周囲には,グローバル化について確固たる意見をもち,世界の貧しい人々の問題に関心を抱いている人が多い。金融報道関係者や影響力のある国際公務員は,グローバルな自由市場は貧しい人々を救うと自信をもって断言する一方,グローバル化に反対する運動家は同じような勢いで正反対の主張をする。しかし思いこみだけで,確かな事実に即した証拠を欠く主張も多い。

 

 またこうした議論ではよくあることだが,人によって同じ言葉を異なる意味で用いる場合がある。たとえば「グローバル化」といったとき,ある人は通信技術の世界的な広がりや資本移動を指し,ある人は先進国企業のアウトソーシングを思い浮かべる。法人資本主義,あるいは米国の文化・経済的覇権の代名詞ととらえる人もいるだろう。

 

 ここでは,国際貿易と投資の拡大という「経済のグローバル化」に限って取り上げる。このグローバル化の過程で,世界で貧困にあえぐ人々の賃金や所得,資源の入手にどのような影響が生じるのだろうか。これは今日の社会科学におけるもっとも重要な問題のひとつだ。




再録:別冊日経サイエンス249「科学がとらえた格差と分断 持続可能な社会への処方箋」

著者

Pranab Bardhan

カリフォルニア大学バークレー校の経済学教授。途上国の地方団体や開発政策の政治経済学,国際貿易の経済理論研究と現地調査を行っている。経済効率と社会的公正は相反する目標ではなく,互いに補完しあう関係にあることを示した研究で知られる。1985年から2003年までJournal of Development Economicsの編集長を務め,現在はマッカーサー財団の援助を受けた不平等と経済活動に関する国際研究ネットワークの共同議長。

原題名

Does globalization help or hurt the world's poor?(SCIENTIFIC AMERICAN April 2006)

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