日経サイエンス  2006年5月号

特集:長寿の科学

「長生き遺伝子」の秘密を探る

D. A. シンクレア(ハーバード大学) L. ガランテ(マサチューセッツ工科大学)

 老化は経年変化による疲弊で,修復不能なものなのだろうか? 著者らはそうではないと考えている。生体には防御や修復作用を維持する遺伝子があり,年齢とは無関係に働くので,これらの遺伝子を長期にわたって活性化すれば,健康を維持し,寿命を延ばすことができるというのだ。

 

 寿命に影響を与える遺伝子は動物実験などから多数発見されている。その中で著者ら注目しているのは,サーチュインと呼ばれる遺伝子ファミリーだ。この遺伝子は食物不足など環境のストレス因子に応じて活性化され,細胞修復,エネルギー生産,アポトーシス(プログラム細胞死)などに影響を与える。サーチュインは生体機能の調節役として働いているのだろう。

 

 寿命を延ばす効果が明らかな方法としては,カロリー制限が知られているが,サーチュイン遺伝子の働きは,カロリー制限が寿命を延ばすメカニズムと同様のものと考えられている。したがって,サーチュインの効果を生かした化合物が開発できれば,厳しい食事制限のかわりとなるカロリー制限模倣薬が誕生するかもしれない。

 

 すでに酵母や線虫,ショウジョウバエでサーチュインによる長寿効果が確認され,現在マウスで実験が進められている。哺乳動物での効果が明らかになれば,抗老化薬への期待もますます高まるはずだ。

著者

David A. Sinclair / Lenny Guarente

2人は寿命を調節する遺伝子を突き止め,そのメカニズムを解明するために,1995年より共同研究をしている。当時シンクレアはマサチューセッツ工科大学(MIT)のガランテの研究室のポスドクになったばかりだった。現在はハーバード大学医学部のポール・F・グレン研究室のリーダーとして加齢の生物学的メカニズムを研究。またハーバード大学とMITが共同で設立したブロード研究所でシステムバイオロジーに取り組んでいる。ガランテは25年以上にわたってMITで教鞭をとり,現在は生物学のノバルティス教授を務める。彼の研究室はSIR2遺伝子が酵母の寿命の調節因子であることを初めて明らかにし,SIR2遺伝子が酵母のカロリー制限効果に影響することを示した。現在,2人は哺乳動物のSIRT1を研究中。このサーチュイン活性分子の薬剤開発を目指して,シンクレアはサーティス社(Sirtis),ガランテはエリクサー社(Elixir)を設立した。

原題名

Unlocking the Secrets of Longevity Genes(SCIENTIFIC AMERICAN March 2006)

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