日経サイエンス  2006年5月号

特集:長寿の科学

元気で年を取るには 長寿国日本の先輩に学ぶ

清水孝彦 白澤卓二(東京都老人総合研究所)

 日本人の平均寿命は男性が78歳,女性が85歳で,全人口の20%を65歳以上の高齢者が占める。高齢期の人生を楽しみ,自立した生活を送るには,どんなことに注意すればよいのだろうか。そのヒントは元気な高齢者の人たち,とくに75歳を過ぎて活動的に過ごしている後期高齢者たちの姿にありそうだ。

 

 著者らのグループはスキーヤーの三浦敬三さん(当時101歳)と日本舞踊師範の板橋光さん(現在103歳)の協力を得て,体力測定や動脈硬化,ホルモンなどの健康調査を行った。その結果,2人の肉体年齢はともに標準よりも若く,三浦さんの大腿骨は60代,板橋さんの腰の骨は80代の骨密度を示すことがわかった。

 

 一方,動脈硬化は2人とも年齢相応に進行していたが,脳や心臓などの重要な臓器には血栓は見られなかった。その理由としては,脂肪細胞が分泌するアディポネクチンというホルモンの作用が考えられる。アディポネクチンは動脈硬化を起こした血管に作用し,蓄積したコレステロール(プラーク)が破裂して血管を塞ぐのを防ぐ働きがある。2人ともアディポネクチンの分泌量がきわめて高かった。

 

 さらに,高齢者の生活機能を調べるために,養護老人ホームの入所者の人たちに「介護予防プログラム」に参加してもらい,運動を中心としたトレーニングの効果を調べた。その結果,週に1~2回のトレーニング(体操やトレーニングマシン使用など)を半年間続けた人たちでは,ビタミンDの低下が防げることがわかった。

 

 長寿には遺伝素因が大きな要素だが,日常生活に運動を取り入れ,飲酒や喫煙などの習慣を見直すなど,環境要因への配慮も重要だ。抗加齢にかかわる生理活性物質としては,ステロイドホルモンのDHEAや,IGF-1(インスリン様成長因子1)なども注目されており,将来の老化防止薬として有望視されている。ただ老化予防をうたっているサプリメントや健康法には効果や副作用が不明なものもあるため,十分な注意が必要だ。

著者

清水孝彦(しみず・たかひこ) / 白澤卓二(しらさわ・たくじ)

清水は東京都老人総合研究所老化バイオマーカー研究チーム研究員,農学博士。白澤は東京都老人総合研究所老化バイオマーカー研究チーム研究部長,医学博士。

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