日経サイエンス  2006年4月号

謎に満ちた褐色矮星の起源

S. モハンティ(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター) R. ジャヤワルダナ(トロント大学)

 惑星とは何か?単純な問題のように思えるが,この問いに答えることはますます難しくなってきている。まず,惑星と小惑星とを分ける境界線が非常にあいまいになっている。つい昨年のことだが,冥王星の外側に冥王星よりも大きな天体が見つかり,冥王星は本当に惑星として分類されるべきなのか,もしそうなら大型の小惑星はどうなのか,という古くからの議論に再び火がついた。

 

 一方で,惑星のサイズの上限がどこにあるのかというもう1つの問題もある。惑星と恒星を隔てる境界線はかつては単純に区別されていたが,これもぼやけている。かつてなら恒星は自身が光を放って輝くが,惑星は恒星の光を反射しているにすぎないといえば十分だった。恒星は内部で水素の核融合を安定的・持続的に起こせるだけの質量を持っていて自ら輝けるが,惑星は水素の核融合を起こすにはあまりにも小さく低温だからだ。また,恒星は星間ガスの雲が収縮して生まれるが,惑星は新しく生まれた恒星の周囲を漂う残骸が集まってできたと考えられていた。要するに,惑星は恒星が生まれた後の残り物にすぎないというわけだ。

 

 しかし過去10年間で,この境界線を曖昧にしてしまう天体「褐色矮星」が数多く発見された。惑星と恒星の中間の質量を持ち,両者と多くの性質を共有しているにもかかわらず,どちらにも分類できない。このことが多くの混乱をもたらしてきたが,最近は反対に褐色矮星の起源を探る研究から,恒星と惑星の出生の秘密を解き明かす重要なカギが見つかり始めている。

 

 

再録:別冊日経サイエンス200「系外惑星と銀河」

著者

Subhanjoy Mohanty / Ray Jayawardhana

米国のケックやマゼラン,日本のすばる,欧州の超巨大望遠鏡(VLT)など世界最大級の望遠鏡を駆使して超低質量星や褐色矮星を研究してきた。モハンティはハーバード・スミソニアン天体物理学センターでスピッツァー宇宙望遠鏡チームの研究員をしている。統計学の知識を疫学研究にも生かしており,最近ではアルツハイマー病に関する論文をJournal

原題名

The Mystery of Brown Dwarf Origins(SCIENTIFIC AMERICAN January 2006)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

惑星恒星褐色矮星ガス雲誕生放出仮説乱流仮説