日経サイエンス  2006年4月号

アルツハイマー病の治療薬をつくる

石浦章一(東京大学) 木曽良明(京都薬科大学)

 長寿高齢化社会を迎え,アルツハイマー病の予防・治療への関心が高まっている。アルツハイマー病は認知症(老人痴呆)の一種で,脳の萎縮や軽い記憶障害から始まり,進行すると家族の顔すらもわからないという深刻な状態に陥る病気だ。脳にアミロイドβタンパク質(Aβ)が蓄積し,老人斑とよばれるシミ状の物体をつくることが特徴で,これが発症の原因ではないかと考えられている。

 

 

 近年,Aβの生成過程にかかわる酵素の働きが明らかになり,これらの酵素の1つ,βセクレターゼを阻害することで,老人斑の形成を抑えられる可能性が出てきた。著者らはAβの前駆体タンパク質がβセクレターゼによって加水分解される遷移状態に着目し,この酵素を高い割合で阻害する薬剤をデザインした。遺伝性アルツハイマー病のモデルマウスを使った実験で,開発されたβセクレターゼ阻害剤にAβ軽減効果があることが確認されている。生体でAβを抑制する効果が認められた初めての実験例だ。

著者

石浦章一(いしうら・しょういち) / 木曽良明(きそ・よしあき)

2人は2002年よりβアミロイド阻害剤の開発に向けて共同研究を続けている。石浦は東京大学大学院総合文化研究科・生命環境科学系教授。理学博士。専門は分子認知科学。長年にわたって遺伝性神経疾患の発生メカニズムの解明に取り組んできた。木曽は京都薬科大学創薬科学フロンティア研究センター長。薬学博士。ペプチド科学が専門で,統合創薬開拓研究を行い,特にペプチドミメティックス合成研究では世界をリードする成果を上げている。

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