
2005年7月のロンドンでの地下鉄テロ以降,爆弾を事前に発見できるような技術を早急に整備すべきだと政治家は声高に主張するようになった。だが,多種多様な爆発物の存在を迅速かつ正確に,しかも離れた距離から発見し,人命と財産を守れる探知器はいまのところ存在しない。それにもっとも近いものとして使われているのは探知犬だが,短時間しか注意力を持続できないので,頻繁に休ませてやらなければならない。
この問題について研究している化学者や材料科学者,電子技術者は,犬のエサに中枢神経興奮剤を混ぜるといったアイデア以上のものを懸命に探している。さまざまな波長の電磁波を駆使して爆発物に含まれる元素を検知するといった方法が順当なところだが,なかには昆虫の能力の活用も候補に上がっている。
米学術研究会議(NRC)による2004年の報告書「既存および有望な爆発物遠隔探知技術」では,従来型の爆発物を用いた爆弾を発見する方法について,型破りな発想を紹介している。食性を変えたミツバチを訓練し,ダイナマイトを積んだ車に群がるようにする,というのもそのひとつだ。センサーを搭載した“昆虫ロボット”も同じような考え方だ。
米国防総省高等研究計画局(DARPA)の委託した報告書では,将来の研究は自爆テロ犯や爆発物を扱う人物に生じる隠せない身体的兆候,たとえば皮膚の変色や血流の増加などを見分ける方向を目指すべきだと勧告した。なかでももっとも突飛なアイデアは,自然のイオン分布に生じた異常を検知して画像化するもので,これは爆弾を持つ人物の周辺では,負の電荷を帯びたイオンが減少する可能性があるからだという。
爆発物探知器は大きく分けて2つのカテゴリーに分類される。ひとつは貨物や手荷物の中身をチェックするバルク探知システムだ。空港に設備されているX線探知器などがその例で,火薬,起爆装置,配線を画像化することで爆弾を発見する。場合によっては化学組成などの特性まではっきりと見きわめられる。もうひとつは空港での使用が普及しつつある微量物質センサーで,爆発物から出るガスや粒子をつきとめるものだ。
原題名
Better Than a Dog(SCIENTIFIC AMERICAN October 2005)
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