日経サイエンス  2006年2月号

地球外生命飛来説を検証する

D. ウォームフラッシュ(ヒューストン大学) B. ワイス(マサチューセッツ工科大学)

 地球の生命は地球上で発生し進化した──この想定を疑う科学者はこれまでほとんどいなかった。長い間,最初の生命体は地球上で「自然発生」したとする考えが広く受け入れられてきた。地球上での化学進化の結果,数十億年前についに生命が現れたというわけだ。一方,「生きている細胞やその材料となる前駆体は宇宙からやってきた」という可能性については,SFや“お話”として一般の人々の関心を呼ぶことはあっても,科学の対象とは考えられていなかった。しかし,この10年で研究が進んでくると,地球の生物は地球外の生命体から発生したというアイデアも非現実的なお話とはいえなくなってきた。

 

 初期の太陽系には,水が存在する天体がたくさんあったと考えられている。液体の水は生命にとって最も重要な構成要素だ。現在は乾いた赤い惑星である火星も,過去の少なくともある時期には水で満ちあふれていたという考えは以前からあったが,米航空宇宙局(NASA)のマーズ・エクスプロレーション・ローバーが最近送ってきたデータは,この考えを裏付けるものだった。はるか昔の火星に生命が存在し,ひょっとすると現在も存続していると考えても荒唐無稽とはいえない。

 

 ひとたび生命が誕生すれば,惑星間の広大な宇宙空間さえ,越えられない障壁ではない。過去20年以上にわたる研究の結果,地球上で見つかった隕石のうち30個以上は火星の地殻に由来するとされている。これはおもに,隕石中にとらえられたガスの成分を分析して得られた結論だ。さらに,隕石などの内部に微生物が閉じこめられていた場合,惑星間の長旅にも耐えうることが生物学的にわかってきた。

 

 もちろん,ある特定の生物が惑星間を実際に旅した,という具体例は報告されていないが,原理的には可能だという証拠が示されている。生命は火星で生まれ地球へ移住した,あるいはその逆のことが起きた,というのはありえないことではないのだ。生命にかかわりのある物質の惑星間移動が実際に起きたのか,もっと詳しく調べようとする試みが始まっている。これは,現代科学が抱える次の3つの疑問に解決の糸口を与えることになるだろう。「生命はどこでどのように誕生したのか」「地球生命と根本的に異なった生命はありうるのか?」「宇宙において生命はどれだけ普遍的なのか?」

 

 パンスペルミア説に関するかつての科学研究は,このアイデアが「どのくらい現実味があるか」という議論ばかりだった。しかし最近では,生命にかかわる物質が他の惑星や衛星から実際に地球へと旅をした可能性を具体的に推定するという方向へ進展している。

著者

David Warmflash / Benjamin Weiss

2人は地球外生命起源説についてそれぞれ異なるアプローチで研究し,互いの考えを補いあってきた。ウォームフラッシュはヒューストン大学とNASAジョンソン宇宙センターの宇宙生物学者で,木星の衛星エウロパと火星の微生物探査における分子検査法の開発に携わっている。ワイスはマサチューセッツ工科大学惑星科学科の助教授で,火星から地球へやってくる隕石は内部まで完全には加熱されなかった可能性を指摘している。

原題名

Did Life Come from Another World?(SCIENTIFIC AMERICAN November 2005)

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