日経サイエンス  2006年2月号

20億年前の天然の原子炉

A. P. メシク(ワシントン大学)

 1972年5月,フランスの核燃料加工施設で,不可解なことに気付いた作業員がいた。彼はいつものように,一見ごく普通の鉱石から抽出したウランを分析していた。すべての天然ウランと同様,分析中の試料には3つの同位体,つまり原子質量の異なる3種類のウランが含まれていた。自然に最も多く存在する同位体であるウラン238,最も希少な同位体のウラン234,そして,核分裂連鎖反応を維持する同位体として需要の大きいウラン235だ。天然ウランは地殻に含まれるものから月面に存在するもの,隕石に含まれるものまですべて,ウラン235が全体の0.720%を占める。

 

 しかし,ガボン共和国(赤道アフリカ西部の旧仏領)のオクロ鉱床で採掘されたこれらの試料は,ウラン235を0.717%しか含んでいなかった。わずかな違いではあるが,何か奇妙な現象が起きたのは確実だった。さらに分析を進めると,オクロ鉱山の少なくとも1カ所で採掘した鉱石で,ウラン235が極端に少ないことがわかった。ウラン235が約200kg分失われているようだった。これは核爆弾を約6発作れる量だ。

 

 フランス原子力庁(CEA)の専門家たちは数週間頭を悩ませた末に,19年前に発表されたある予測をようやく思い出した。1953年,カリフォルニア大学ロサンゼルス校のウェズリル(George W. Wetherill)とシカゴ大学のイングラム(Mark G. Inghram)は,一部のウラン鉱床が,かつて天然の原子炉として機能していたという可能性を指摘した(原子炉は当時,開発されたばかりだった)。その後まもなく,アーカンソー大学の化学者だった黒田和夫(くろだ・かずお,故人)は,ウラン鉱体が自発的に核分裂連鎖反応を起こすには,どのような条件が必要かを算出した。核分裂連鎖反応とは,自由中性子の衝突によってウラン235の核分裂が起こり,放出された複数の中性子によって次の核分裂が誘発される過程だ。

著者

Alex P. Meshik

ロシアのサンクトペテルブルク国立大学で物理学を学んだ。1988年にロシア科学アカデミーのベルナツキー研究所でPh. D.を取得。学位論文は希ガス(キセノンとクリプトン)に関する地球化学,地質年代学,核化学的な研究だった。1996年よりワシントン大学(セントルイス)の宇宙科学研究所に所属。現在は主に,ジェネシス宇宙船が地球に持ち帰った太陽風中の希ガスに関する研究を行っている。

原題名

The Workings of an Ancient Nuclear Reactor(SCIENTIFIC AMERICAN November 2005)

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アルミニウムリン酸塩 キセノン