日経サイエンス  2006年2月号

ナノワイヤで作るコンピューター

P. J. キークス G. S. スナイダー R. S. ウィリアムズ(ヒューレット・パッカード)

 この半世紀ほどの間に,1個のシリコンチップに載せられるトランジスタは「ムーアの法則」の予言通りに激増し,その数は10億個に迫ろうとしている。数値計算や論理演算,データ保存といった性能は飛躍的に向上し,私たちの生活も大きく変わった。そして,大規模で影響力の大きな新しい産業が世界中に生み出された。

 

 今後さらに多くのトランジスタをシリコン集積回路(IC)に詰め込んでいくと,15年後には最小部品のサイズは分子とほぼ同じ大きさに達するだろう。シリコントランジスタの物理的な限界となる10nm(原子約30個分の長さ)にたどり着くには,画期的な技術革新が必要だ。演算素子をさらに小型化する技術を見つけることは,テクノロジーの進歩を止めないためにも重要なのだが,シリコンICがあまりに優れた実績を残したため,その後継となるべき技術には非常に高いハードルが課せられることになった。

 

 世界のあちこちで興味深い技術がいくつも研究されているが,多くの研究グループは,10年ほどで製品化にこぎ着けられるような中期的な代替技術を探している。経済性を考えると,新技術は従来のICを支えてきた技術基盤の多くを利用できるものでなくてはならない。製造工場といった設備やソフトウエアのプラットフォームなどが従来のICと共通でなければならないのだ。

 

 ヒューレット・パッカード研究所のチームは,次世代を担う最有力候補として「クロスバー・アーキテクチャー」という技術を開発している。平行に並んだ1組のナノワイヤ(幅は原子100個分未満)と,わずかな隙間をあけて交差するもう1組の平行なナノワイヤで構成される。2組のナノワイヤの間隙には,電気的な刺激を与えると電流が流れやすくなったり流れにくくなったりする物質をはさみこむ。ナノワイヤどうしが交差する接合点がオン・オフを維持する多数のスイッチになる。これらを使って,メモリーや論理回路を構築することができそうだ。

著者

Philip J. Kuekes / Gregory S. Snider / R. Stanley Williams

3人はヒューレット・パッカード(カリフォルニア州パロアルト)の量子科学研究(QSR)グループで次世代のコンピューティング技術の開発に携わっている。キークスはコンピューティング,電子回路や電子デバイス,量子情報研究などの領域に新しいアイデアを持ち込んだ人物だ。QSRグループのチーフ設計者でもある彼は,30年以上にわたって最先端のコンピューターの設計と構築を続けてきた。現在HPでコンサルタントを務めるスナイダーは,ナノエレクトロニクスのアーキテクチャー設計を改善する道を探っている。彼はこれまでに,論理回路設計,コンパイラ,OS,論理合成,デジタル信号処理,コンピューターセキュリティー,ネットワークシステムなどにかかわってきた。HPのシニアフェロー兼QSRグループのディレクターであるウィリアムズは,専門がばらばらなメンバーで構成されたグループの指揮をとり,新しいナノ回路の設計,構築,試験を進めさせている。以前の彼は固体物理・化学を専門にしていたが,現在はナノサイエンスと情報技術を組み合わせた技術の研究に力を注いでいる。

原題名

Crossbar Nanocomputers(SCIENTIFIC AMERICAN November 2005)

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