日経サイエンス  2005年12月号

特集:地球の未来

病気との闘い 求められる新戦略

公衆衛生

B.R. ブルーム(ハーバード大学)

 いま世界中で著しい人口遷移が起きている。農村から都市へと人口が移り,少子化と高齢化が進んでいるのだ。これに伴い,病気にも変化が見られるようになった。インドや中国のように急速に景気拡大している国々は,先進国と同じような健康問題に直面している。以前のように開発途上国と先進国に二分して疾病対策を論じることはできなくなっている。

 

 現実には,多くの国々で感染症の影響が弱まり,国民の健康は改善されつつある。大半の途上国では国民の寿命が延びて,死因の上位はかつての感染症から高齢者に多い心疾患や糖尿病,ガンなどの慢性疾患に変わってきた。とはいえ,感染症が消滅したわけではない。アフリカに限らず,世界中の国々にとって,感染症は今なお恐ろしい存在だ。新興感染症の病原体がもたらす脅威も,世界の国々の垣根を取り払った。グローバリゼーションの時代にあって,国境知らずの疾病と病原体はジェット機の速度で地球全体に拡散する恐れがある。

 

 健康問題は経済成長の足を引っ張る。国民が健康であれば,経済は上向き,貧困は解消され,社会格差もなくなる。また,一国の健康問題による損失が他の地域にも拡大することもしばしばだ。

 

 健康な未来のためにいま何をすべきか。多くの感染症や慢性疾患には予防が最も効果的な対策と考えられる。また,新興感染症や自然災害などの危機を最小限に食い止めるには,迅速に対応できる公衆衛生インフラの整備が不可欠だ。世界中の人々の健康問題に取り組むには,新しい国際協力体制づくりを急がねばならない。

著者

Barry R. Bloom

ハーバード大学公衆衛生学部の学部長,ジョアン L. &ジュリアス H. ジェイコブスン教授職。国際保健のリーダーとして30余年にわたり世界保健機関に協力,数々の国内諮問機関のために尽力し,ホワイトハウスの顧問も務める。結核菌に対する免疫反応の研究で第1回ブリストル・マイヤーズ・スクイブ感染症優秀研究賞を受賞。ハーバード大学で修士号を,ロックフェラー大学で博士号を取得している。米国科学アカデミー,米国医学協会,米国アカデミー会員。

原題名

Public Health in Transition(SCIENTIFIC AMERICAN September 2005)

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