
初期宇宙の姿を今に伝える宇宙マイクロ波背景放射(CMB)。その解析データに理論と矛盾する点が見つかった。周波数の低い“低音”成分が弱く,ピッチも狂っているのだ。理論に誤りがあるのだろうか?
現在の標準的な宇宙モデルは「インフレーション・ラムダ・冷たい暗黒物質モデル(ΛCDMモデル)」と呼ばれ,宇宙の多くの性質を非常にうまく説明できる。しかし,マイクロ波背景放射の観測データを解析した結果,重大な矛盾点が浮かび上がった。
マイクロ波背景放射の温度ゆらぎは「モード」に分けて解析される。これはオーケストラの演奏を楽器ごとに分けて聴くことに相当する。背景放射をオーケストラにたとえると,その演奏を乱しているのは低音を担うコントラバスとチューバで,音程が外れているほか,その音量も異常なまでに小さい。これはインフレーションモデルの普遍的な予言と矛盾する。
この謎に対する答えとしては3つの可能性が考えられる。第1は不自然な観測結果は単なる統計的偶然にすぎないという可能性。第2は観測に伴って生じた見かけの効果にすぎないという可能性。そして最後に考えられるのは,観測データが正しく,理論のほうに重大な欠陥があるという可能性だ。
実際の観測データは本来の背景放射以外に,太陽系外縁部に存在するガスなどの影響を受けている可能性があるようだ。しかしそれを認めても,インフレーションモデルでは説明しきれない要素がなおも残る。
著者
Glenn D. Starkman / Dominik J. Schwarz
2人が初めて共同研究を行ったのは2003年,ジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構(CERN)でのことだった。シュタルクマンはケース・ウェスタン・リザーブ大学の物理・天文学科にある宇宙天体物理学教育研究センターのアーミントン教授。シュワルツはオーストリアのウィーン工科大学を卒業後,宇宙論の研究に取り組んできた。最近,ドイツにあるビーレフェルト大学の教官職に就いた。宇宙の実体と初期状態に興味を抱いている。
原題名
Is the Universe Out of Tune?(SCIENTIFIC AMERICAN August 2005)
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