日経サイエンス  2005年10月号

CO2を“埋葬”する

R.H. ソコロウ(プリンストン大学)

 かの有名な劇作家シェイクスピア(1564年~1616年)がひと息ついたとき,彼の肺に吸い込まれる空気中の分子100万個あたり280個が二酸化炭素だった。今日,私たちが息を吸い込むと,100万個あたり380個が二酸化炭素だ。この分だと,年に2個ペースで二酸化炭素は増え続けてしまう。

 

 大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が上昇すると,どんな事態が引き起こされるのか。今後数十年でさらに多くのCO2を大気中に排出した場合,どのような影響が生じるのか。正確なところ誰もわからない。

 

 科学者たちはCO2が大気を暖めているのを知っているし,それが海水面の上昇をもたらし,海に吸収されたCO2によって海水の酸性化が進むことも理解している。しかし,それがどんな結果をもたらすのか,正確には把握していないのが現状だ。地球全体で気候がどう変化するのか。海水面がどれほど急速に上昇するのか。酸性の海が何を意味するのか。地上や海中の生態系で気候変動に最も弱い部分はどれなのか。これらの変化が私たちの健康や幸福にどんな影響をもたらすのか……。近年,CO2濃度の増加がもたらす気候変動は,私たちがその深刻さを理解するよりも速いペースで進行している。

 

 CO2の削減を社会全体の最優先課題とみれば,すぐにでも削減に向けた対策に取り組むべきだ。エネルギーの利用効率を向上させ,化石燃料(石炭や石油,天然ガスなど大気中のCO2の主な発生源)から,CO2の出ない再生可能エネルギーや原子力へ代替を急ぐことだ。

 

 さらに,現在注目を集めつつある手法を採用するという手もある。CO2を大気中に排出するのではなく,回収して地中に貯留・隔離するという解決策だ。人類は昔から排気ガスの“捨て場”として大気を使ってきたが,それは工場や家庭の煙突,車の排気口から出すのが最も簡単で,少なくともいまのところは安上がりだからだ。幸いにも,CO2の回収・貯留技術はすでにあり,実施を妨げる障壁も乗り越えられそうだ。

著者

Robert H. Socolow

プリンストン大学の機械航空工学科の教授。工学・応用科学部およびウッドロー・ウィルソン公共・国際関係学部の両方で教鞭を執っている。たたき上げの物理学者で,同大学の炭素緩和構想の副主任研究員〔生態学者のパカラ(StephenPacala)と共同研究〕。同構想はブリティッシュペトロリアム社とフォードの支援の下,国際的な炭素管理や水素経済,化石炭素隔離に注力している。2003年に米国物理学会からレオ・シラード講師賞を授与された。

原題名

Can We Bury Global Warming?(SCIENTIFIC AMERICAN July 2005)

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