
クラミジアは性感染症を引き起こす病原菌として知られるが,クラミジアの仲間にはさまざまな細菌があり,多種多様な病気の原因となる。肺炎やオウム病など呼吸器の疾患,失明につながるトラコーマ,不妊症の原因となる卵管閉塞,また最近では,アテローム性動脈硬化との関連も注目されている。
特に,衛生状態のよくない開発途上国ではトラコーマが,先進国では性器クラミジア感染症が深刻だ。治療には抗生物質が有効だが,途上国では治療を受けられぬままトラコーマによる炎症が長びいて視力を失う人たちも多い。一方,先進国に多い性器クラミジアの場合は,感染しても自覚症状がないため,気づかないうちに悪化する。さらに人にうつしてしまう可能性が高い。
クラミジアが厄介なのは,自らが分泌するタンパク質や盗み出した宿主細胞の物質で偽装することにより,免疫細胞の攻撃を巧みに逃れるためだ。免疫系は見えざる敵を相手に悪戦苦闘を続け,炎症はますます広がっていく。身体は炎症で傷ついた組織を修復しようと,瘢痕(はんこん)をつくる。この瘢痕が卵管閉塞の原因になったり,トラコーマによるまぶたの変形を引き起こし失明につながる。
クラミジアの撲滅にはワクチンが有効だが,感染メカニズムの解明は始まったばかりで,ワクチン開発には時間がかかりそうだ。先進国の感染拡大を防ぐには,大規模なスクリーニングを実施し,症状のない保菌者を治療することが最も効果が高いと考えられる(日本で問題となっている若年層の感染拡大についても囲み記事で紹介する)。
著者
David M. Ojcius / Toni Darville / Patrick M. Bavoil
それぞれ異なる専門知識を生かしてクラミジアを研究している。オーシャスはフランスで12年にわたり感染症を細胞,免疫面から研究した後,2004年にカリフォルニア大学マーセド校で教授陣の仲間入りを果たす。ダービルはアーカンソー州立医科大学の小児感染症専門医,1994年からマウスとモルモットを使ってクラミジア感染症の免疫を研究している。メリーランド大学ボルティモア校助教授であるバーボイルはクラミジア感染症の生化学と分子生物学を研究している。
原題名
Can Chlamydia be Stopped?(SCIENTIFIC AMERICAN May 2005)
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