
男女の脳は,多くの点でたいへんよく似ている。しかし,この10年間で,脳の構造やそこでの化学反応,そして機能において,驚くべき男女差が見られることがわかってきた。
ドタバタ喜劇を見てげらげら笑うのは男性のほうが多いのはなぜか?脳での男女差を研究すれば,こうした興味深い疑問の答えにつながるだろうが,もちろんそれだけではない。うつ病や依存症,統合失調症,心的外傷後ストレス障害(PTSD)などさまざまな病気で,男女を区別した治療法を開発する必要性もありそうなのだ。さらに,違いがあるということは,脳の構造や機能の研究でデータを検討する際に,被験者の性別を考慮しなければならないことを意味する。たとえば男性被験者だけで行った実験結果を女性も含めたヒト全体にあてはめようとすると,誤った結論に至る危険がある。
ここ5~10年の間に,医療用の画像技術が急速に進んだ。これを使った研究の結果,脳全体にわたる複数の領域で解剖学的な違いが見られることがわかってきた。ハーバード大学医学部のゴールドスタイン(JillM. Goldstein)らはMRIを使って,いろいろな皮質領域と皮質下領域のサイズを測った。その結果,さまざまな高次認識機能領域が含まれる前頭皮質部分は,男性よりも女性のほうが大きいことがわかった。また,大脳辺縁皮質の情動反応に関連している部分も女性のほうが大きかった。一方,男性では空間的知覚に関連する頭頂皮質の部分が女性より大きく,扁桃体も女性より大きかった。扁桃体はアーモンド形の構造体で,心臓の拍動を速めたり,アドレナリン放出につながるような,感情を刺激する情報に反応する。
脳で占める大きさの違いは,その動物にとってその構造がどれだけ大切かを表す尺度と考えられている。ということは,男女の脳に解剖学的相違が広く見られるのなら,脳の働きにも男女差があると考えてもよいのではないだろうか。
著者
Larry Cahill
1990年にカリフォルニア大学アーバイン校で神経科学でPh. D.を取得した。2年間,ドイツで画像技術を使ってアレチネズミの学習と記憶について研究したのち,母校に戻った。現在は神経生物学・行動学科の准教授を務め,学習・記憶神経生物学センターのフェローでもある。
原題名
His Brain, Her Brain(SCIENTIFIC AMERICAN May 2005)
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