日経サイエンス  2005年6月号

免疫系の暴走を止めろ 全身性エリテマトーデスに挑む

M.ズアリ(フランス国立保健医学研究機関)

 ある24歳の女性は,腎不全と抗てんかん薬の効かないてんかん様痙攣(けいれん)と診断された。しかし,外から見てすぐにわかる症状は,鼻をまたぐように頬全体に広がる蝶の形をした赤みがかった発疹だった。

 

 別の63歳の女性は,疲労感や関節痛,息をすると鋭い痛みを感じる原因を突きとめるために入院を希望してきた。この女性は10代のころから日なたに出ることを避けていた。日光を浴びると,服で隠れていない部分に水疱状の発疹が現れて痛むからだ。

 

 またある20歳の女性は,定期検診で尿中タンパク質の値が異常に高いことを知って驚いた。これは腎機能が低下していることを意味する。腎生検の結果,炎症が起きているとわかった。

 

 このように症状はさまざまだが,おおもととなる疾患はこの3人で共通している。それが「全身性エリテマトーデス(SLE)」だ。米国だけで推定140万人がSLEに苦しんでいる(日本では5万~10万人)。SLEは皮膚や関節,腎臓,心臓,肺,血管,脳と,身体のほぼすべての部分に影響を及ぼすおそれがある。命にかかわる場合もある。

 

 SLEの原因が,抗体など免疫系の異変にあることは以前から知られていた。SLE患者では,自分の組織を構成する分子を異物として見なすような抗体ができてしまう。このような異常な「自己抗体」は,自身の組織の表面にある「自己抗原」を標的として攻撃を仕掛ける。

 

 患者の免疫系は,驚くほど多様な分子に強く反応してしまう。攻撃対象となるのは,細胞表面に露出している分子,細胞質にある分子,さらには細胞内の核の中にある分子など多岐にわたる。SLEでは,患者自身のDNAを攻撃する抗体まであることが知られている。

 

 なぜ,これほど多面的な自己攻撃が生じてしまうのだろう?最近までその原因はほとんどわかっていなかった。しかし,幅広い分野の研究から手がかりが得られ,分子レベルでのメカニズムが明らかになりつつある。

著者

Monsef Zouali

フランス国立保健医学研究機関(INSERM)傘下の施設を率いる免疫学者で分子生物学者。全身性の自己免疫疾患の原因を分子レベルで解明しようと基礎研究を続けるかたわら,得られた成果を臨床に応用することにも関心を寄せている。自己免疫に関する数冊の書籍の編者にもなり,数々の受賞歴がある。

原題名

Taming Lupus(SCIENTIFIC AMERICAN March 2005)

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