
ビッグバンとともに宇宙が誕生したとき,どこかで何かが爆発したのだろうか?そんな風に考える人が多いが,あいにく大間違いだ。そもそも宇宙が膨張するとは,いったい何を意味しているのだろう。
宇宙膨張は現代科学を支える基本的な概念の1つだが,最もひどい誤解を受けている概念の代表例でもある。誤解を避けるには,「ビッグバン」という言葉にとらわれすぎないことが重要だ。ビッグバンは,宇宙の中心で破裂して周囲の空っぽの空間に物体をまきちらした爆弾ではなかった。むしろ,至る所で起こった「空間そのものの爆発」であり,風船の表面全体が伸びていくようなものだった。
「空間そのものの膨張」と「空間の中で起こった膨張」の違いはささいなものに思えるかもしれないが,宇宙の大きさや銀河が離れていく速度,現在の宇宙で起こっていると考えられる加速膨張の本質などは,両者でまったく異なるものとなる。
例えば,「銀河は光よりも速く後退できるか?」という問いに対する答えは実はイエスだ。「超光速で遠ざかる銀河を見ることができるか」。この答えもイエス。「銀河の赤方偏移はなぜ起こるのか」。ドップラー効果によると答えた人は間違いだ。「観測可能な宇宙の大きさはどれくらいか」。宇宙の年齢は140億年だから140億光年,と答えたくなるかもしれないが,実は460億光年が正解だ。
厳密にいえば,ビッグバンモデルはビッグバンそのものに関してはほとんど何も語っていない。ビッグバンの後に起きたことを記述しているだけだ。
著者
Charles H. Lineweaver / Tamara M. Davis
2人はオーストラリアのキャンベラ近郊にあるストロムロ山天文台の天文学者で,宇宙論から宇宙の生命体に至るまで,幅広い問題に取り組んでいる。ラインウィーバーは1990年代初め,カリフォルニア大学バークレー校にいた際に,宇宙背景放射探査衛星COBE(CosmicBackground Explorer)のチームの一員として,背景放射のゆらぎの発見にかかわった。天体物理学だけでなく,歴史と英文学の学位を持つ。かつてはセミプロのサッカー選手として活躍,息子のコリーンとディアドリは若手の人気サッカー選手に育っている。デイビスは現在計画中の宇宙天文台SNAP(Supernova/AccelerationProbe)のプロジェクトに取り組んでいる。アルティメット(フリスビーフットボール)のオーストラリア代表で,世界選手権に2度出場している。
原題名
Misconceptions about the Big Bang(SCIENTIFIC AMERICAN March 2005)
サイト内の関連記事を読む
ひも理論/インフレーション/ハッブルの法則/事象の地平/宇宙マイクロ波背景放射/相対性理論
キーワードをGoogleで検索する
宇宙マイクロ波背景放射/ひも理論/ハッブルの法則/相対性理論/事象の地平/インフレーション