
初期の宇宙は,銀河どうしの衝突や爆発的な星形成,超大質量ブラックホールの誕生などに特徴付けられる大荒れの時代だった。その後こうした活動が鈍ったことから,宇宙の全盛期は遠い昔に過ぎ去ったと考えられた。しかし近年の観測で,比較的近くにある銀河の多くにブラックホールが存在し,依然として盛んにガスを消費し続けていることがわかった。星の形成も,かつて考えられていたほど急激には落ち込んでいない。
これらの結果が示しているのは“宇宙のダウンサイジング”だ。かつて少数の大型コンピューターが行っていた業務を現在では多数の高機能パソコンが担うようになったように,宇宙も活動の舞台が大規模銀河から小さな銀河へと移ってきた。初期宇宙は比較的少数の巨大な銀河が支配していたが,現在の宇宙の活動は多数の小型の銀河で分散して起こっている。
宇宙がいまだ元気な壮年期にあるという新しい見方は宇宙論の研究結果とも合致する。最新のコンピューターシミュレーションによると,少数の巨大で強力な銀河に支配されていた宇宙が,より小粒で穏やかな多数の銀河が散在する宇宙へと変化してきたのは,宇宙膨張の直接の結果だと考えられる。
大型の銀河では超新星爆発やクェーサーのエネルギーによって周囲のガスが熱せられたが,小型の銀河はさほどでもなく,比較的低温の環境にあると考えられる。また,小ぶりの銀河は周囲の物質を少しずつ消費するだけで,現在に至るまで慎ましい生活スタイルを維持してきたのだろう。逆に大型銀河は浪費家で,資源を使い尽くし,周囲から新たな物質を集めることもできなくなってしまった。近傍の小型銀河を取り巻くガスの性質に関しては観測研究が続いており,これらがどのような影響を及ぼしあっているのかが明らかになるだろう。銀河の進化を解明するカギになるはずだ。
宇宙のダウンサイジングが進むにつれ,星形成の主な舞台は矮小銀河(たかだか数百万個の星の集まりだが,銀河の大部分を占めるタイプ)に移るだろう。宇宙は必然的に暗くなり,輝かしい過去をしのばせる銀河の“化石”が散らばるだけの世界になる。古い銀河が消え去ることはない。ただ,輝きを失っていくだけだ。
著者
Amy J. Barger
極めて古い天体を観測することで,宇宙の進化を探ってきた。ウィスコンシン大学マディソン校の天文学の准教授で,ハワイ大学マノア校の大学院コースでも教えている。1997年に英ケンブリッジ大学で天文学のPh.D.を取得した後,ハワイ大学天文学研究所でポスドク研究に取り組んだ。チャンドラX線宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡,アリゾナ州のキットピーク天文台やハワイのマウナケア天文台の望遠鏡を使用して,高赤方偏移天体の観測を続けてきた。
原題名
The Midlife Crisis of the Cosmos(SCIENTIFIC AMERICAN January 2005)
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