
この世界には尽きせぬ美がある。ただ,いつもはそれを見る手段がないので,気がつかないだけだ。そして,より多くのものを見ようとするなら,科学が素晴らしいテクニックを提供してくれる。光やレンズといった基本的な道具立てを工夫することによって,目にすることのできる範囲は大きく広がり,裸眼では決して見られない小さな世界や遠くの世界が開けてくる。
天体望遠鏡は私たちの視界を日ごろ目にしている領域から何十億光年も離れた遠い宇宙へと広げてくれるが,光学顕微鏡は私たちの目を内なる世界へといざなう。光学顕微鏡を使えば,光の波長と同程度の小さなものを見分けられる。日常世界の1/1000の微小な世界だ。
ここに掲載した写真はニコンが主催している毎年恒例の顕微鏡写真コンテスト「スモールワールド」の応募作品から選んだものだ。顕微鏡写真の達人たちがとらえたこれらの映像には,対象に肉薄する技法が凝縮している。いずれの作品も生物を題材にしており,通常では見ることのできない生命の意外な一面を鮮やかに描き出している。
倍率と解像度,コントラストを調整することによって,非常に小さなものが接眼レンズの視界に姿を現す。ほとんど透明で,そのままでは目に見えないものまでがあぶり出される。その技法は,作曲家がいろいろな音を操って力強い音楽作品を築き上げるのと通じるところがある。
顕微鏡写真の専門家たちは糖を染色し,さまざまなタンパク質を蛍光色素で標識し,虹色の光を当て,あるいはさまざまなアングルから陰影をつけて輪郭を際立たせることによって,観察対象に隠された姿を可視化する。こうして得られた映像は,まさに光が織りなす小さなシンフォニーだ。
原題名
Eye of the Beholder(SCIENTIFIC AMERICAN January 2005)