日経サイエンス  2005年3月号

脳を揺さぶる音楽

N.M. ワインバーガー(カリフォルニア大学アーバイン校)

 音楽にこんなにも心を動かされるのはなぜだろうか。私たちの脳は音楽をどう処理しているのだろうか。脳画像に基づく最新の研究から,その秘密が少しずつ見えてきた。

 

 意外なことに,音楽を処理する特別な「中枢」は存在しない。音楽を聴くと脳のさまざまな領域が反応するが,音楽の認識や情動的反応など,それぞれで関係する領域は異なる。音楽は脳全体にわたる多数の領域に関連していて,なかには通常は別の認知活動にかかわっているものもある。

 

 また,その人にとって重要な楽音に対してはより敏感に反応するよう,脳そのものが変化していく。神経細胞が敏感に反応する周波数が,学習によって“調律”し直され,重要な音にはより多くの神経細胞が最適に応答するようになる。こうした細胞レベルでの調整が聴覚野全体にわたって起こり,以前よりも広い範囲の皮質で処理されるようになる。

 

 音楽に関連した情動については少なくとも2つの系が働いており,それぞれが異なるタイプの感情に対応している。聴覚系がさまざまなパターンで活性化すると,そのパターンに応じて脳の両半球の異なる応答領域が特異的に働くと考えられるが,両者がどのように結びついているのかはまだわかっていない。

 

 ただ,音楽を聴くと非常な至福感を覚えるという音楽家の脳を調べた結果,食事やセックス,依存性薬物によって刺激されるのと同じ報酬系の一部が音楽によって活性化していることがわかった。

 

 音楽と脳に関する研究が進むにつれ,音楽とその存在理由に関する理解が進むだけでなく,音楽がいかに多様な側面を備えているかもわかってくるに違いない。

著者

Norman M. Weinberger

ケースウェスタンリザーブ大学で実験心理学のPh. D.を取得した。現在はカリフォルニア大学アーバイン校の神経生物学・行動学科に勤務している。同校の学習・記憶神経生物学センターとMuSICA(音楽と科学に関する情報アーカイブ)の創設者の1人。聴覚系における学習と記憶の研究をリードしてきた。Neurobiologyof Learning and Memory誌とMusic Perception誌の編集委員を務めている。

原題名

Music and the Brain(SCIENTIFIC AMERICAN November 2004)

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